ブルーバード – U11【FFブルーバードが「普通」になった世代】

ブルーバードという名前に、どんな印象を持つでしょうか。

技術の日産を体現した看板車種。サニーの兄貴分。トヨタ・コロナとの販売合戦を繰り広げた永遠のライバル。

そのどれもが正しいのですが、U11型に限って言えば、少し違う角度から見る必要があります。この世代のブルーバードは、革命の直後に来た「地固め」の一台だったからです。

先代が起こした革命の後始末

U11型ブルーバードを語るには、まず先代のU11…ではなく、910型U11の一つ前にあたるU11型の関係を整理する必要があります。正確には、U11型は7代目ブルーバードにあたります。ただし、ブルーバードの系譜で本当に大きな転換点だったのは、その一世代前、1983年ではなく1979年登場の910型と、そこからFF化に踏み切った流れそのものです。

910型ブルーバードはFR(後輪駆動)の最終世代として大ヒットしました。「ブルーバード、お前の時代だ」というCMコピーが象徴するように、端正なデザインと扱いやすさで幅広い支持を集めた名車です。ところが日産は、その次のモデルで駆動方式をFF(前輪駆動)に転換します。

FFへの切り替えは、910型の後継として1983年10月に登場したU11型で実現しました。正確に言えば、日産はこの世代で「ブルーバードをFF化する」という大きな賭けに出たわけです。当時、世界的にFF化の波が押し寄せていたとはいえ、FRで成功していた看板車種の駆動方式を変えるのは、メーカーにとって相当なリスクでした。

CA型エンジンとFF専用設計の意味

U11型の心臓部を担ったのは、CA型エンジンです。CA16、CA18、CA20といった直列4気筒が搭載され、排気量は1.6Lから2.0Lまでカバーしていました。CA型は日産がFF車用に開発した横置きエンジンで、U11型ではこのエンジンの熟成が大きなテーマになっています。

CA型エンジンは、当時の日産が持っていたFF用パワートレインの中核です。SOHCとDOHCの両方が用意され、ターボモデルも設定されました。特にCA18DETを積んだターボモデルは、FFセダンとしてはかなり力強い走りを見せています。ただ、このエンジンの本質的な美点は爆発的なパワーではなく、日常域での扱いやすさと静粛性にありました。

FF化によって室内空間が広がったことも見逃せません。プロペラシャフトのトンネルが不要になり、後席の足元が広くなる。トランク容量も確保しやすくなる。こうした実用面でのメリットは、カタログ上の数値以上に、実際に乗る人にとっては大きな変化でした。

「技術の日産」が選んだ実用路線

U11型ブルーバードの設計思想を一言でまとめるなら、「奇をてらわず、確実に良くする」という方向性です。先代でFF化という大転換を果たした以上、この世代に求められたのは革新ではなく成熟でした。

ボディデザインは、直線基調でありながら角の丸みを増した、いかにも1980年代中盤らしいスタイルです。4ドアセダンとワゴン(ただしワゴンはやや遅れて追加)が主力で、ハードトップも用意されました。ハードトップはピラーレスの開放感を持ちながら、ボディ剛性の確保にも配慮されています。

足回りには4輪独立懸架が採用されました。FFセダンで4輪独立というのは、当時のこのクラスでは先進的な選択です。コロナやカリーナといったトヨタ勢がリアにビーム式を使っていた時代に、日産はコストをかけてでも走りの質を追求しています。「技術の日産」という看板は、こういう地味なところにこそ表れていました。

ライバルとの距離、そして時代の空気

1983年という年は、日本の自動車市場にとって過渡期でした。FF化の波はすでに止められないものになっており、トヨタもカローラやカリーナでFF化を進めています。ブルーバードの直接のライバルであるコロナも、1983年登場のT150系でFF化を果たしました。

つまり、U11型ブルーバードが戦った相手は、同じようにFF化を済ませたばかりのライバルたちだったわけです。ここで勝負を分けたのは、FFとしての完成度の差でした。日産はスタンザやパルサーなど、ブルーバードより先にFF化した車種で経験を積んでおり、その蓄積がU11型に活かされています。

ただし、販売面では910型ほどの爆発力はありませんでした。910型が持っていた「FRセダンの決定版」という明快なキャラクターに比べると、U11型は良くも悪くも優等生的です。突出した個性がないぶん、指名買いの動機が弱い。これはU11型だけの問題ではなく、FF化以降のブルーバード全体が抱えることになる構造的な課題でもありました。

SSSの名は残ったけれど

ブルーバードといえばSSS(スリーエス)というグレード名を思い浮かべる人も多いでしょう。Super Sports Sedanの頭文字を取ったこの名前は、510型の時代からブルーバードのスポーティグレードを象徴してきました。

U11型にもSSSは設定されています。ターボエンジンにスポーツサスペンション、専用の内外装を組み合わせた仕様で、カタログ上のスペックは十分に魅力的でした。しかし、FFになったブルーバードのSSSは、510や910のSSSとは本質的に異なるものです。

FRのSSSが持っていた、後輪駆動ならではのスポーティな挙動や、ドライバーとの一体感。それはFF化によって失われた部分でもあります。もちろんFFにはFFの良さがあり、トラクション性能やスペース効率では優れています。ただ、SSSという名前が喚起するイメージと、実際の走りの質感との間に、微妙なズレが生じ始めていたのは事実でしょう。

U11型が系譜に残したもの

U11型ブルーバードは、派手な話題に乏しい世代です。先代のようなFF化の衝撃もなければ、後継のU12型のような洗練されたデザインの評価もありません。けれど、この世代がなければ、ブルーバードのFF化は「実験」のまま終わっていた可能性があります。

FF専用プラットフォームの熟成、CA型エンジンの改良、4輪独立懸架の採用。U11型が地道に積み上げたこれらの技術的資産は、次のU12型で花開くことになります。U12型ブルーバードが「走りのいいFFセダン」として高い評価を受けたのは、U11型の時代に基礎が固められていたからです。

もうひとつ、U11型が示したのは、ブルーバードという車種の性格が変わりつつあったという事実です。510型や910型の時代、ブルーバードは「走りで選ぶセダン」でした。しかしFF化以降、ブルーバードは徐々に「実用性で選ぶセダン」へとシフトしていきます。その転換点に立っていたのが、U11型でした。

革命は目立ちます。でも、革命を日常に定着させる世代は、どうしても地味になる。U11型ブルーバードは、まさにそういう役割を担った一台です。

派手さはなくても、ブルーバードがブルーバードであり続けるために、必要な世代だったと言えるでしょう。

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