コロナ マークII – T60/T70【「コロナの上」が独り立ちするまでの助走】

「コロナの上位版」

コロナ マークIIの出自を一言で言えば、そうなります。

ただ、この車が面白いのは、最初から独立した車格を与えられたわけではなく、あくまで「コロナの延長線上」として世に出たという点です。にもかかわらず、後にマークIIはトヨタの屋台骨を支える独立シリーズへと育っていきました。

その最初の一歩が、1968年9月に登場したT60/T70系です。

コロナでは届かない層がいた

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1960年代後半、日本のモータリゼーションは急速に進んでいました。大衆車としてのカローラやサニーが爆発的に売れる一方で、もう少し上のクラス、つまり「いい車に乗りたいけどクラウンは大げさだ」という層が確実に膨らんでいたのです。

当時のトヨタのラインナップには、大衆車のカローラ、中堅のコロナ、そして高級車のクラウンがありました。問題は、コロナとクラウンの間にかなりの空白地帯があったことです。日産がブルーバードの上にローレルを投入する動きを見せていた時期でもあり、トヨタとしてはこの隙間を放置するわけにはいきませんでした。

ただ、ゼロから新しい車格のクルマを開発するのは時間もコストもかかります。そこでトヨタが選んだのが、すでに市場で信頼を得ていたコロナをベースに、車格を一段引き上げた派生モデルを作るという手法でした。これがコロナ マークIIの出発点です。

コロナの皮を被った別のクルマ

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1968年9月に登場した初代コロナ マークII(T60/T70系)は、名前こそ「コロナ」を冠していますが、中身はかなり別物でした。ホイールベースはコロナ(T40系)より延長され、ボディも一回り大きくなっています。コロナの部品や設計資産を活用しながらも、居住性と走りの質感を明確に上げてきたクルマでした。

エンジンは直列4気筒のみで構成されています。発売時は1.6Lの7R型(85ps)と1.9Lの8R型(100ps)、そしてツインキャブの8R-B型(110ps)という布陣でした。翌1969年9月には1.9L DOHCの8R-G型(140ps)と1.6Lツインキャブの7R-B型が追加され、1970年2月には1.6L系が1.7Lの6R型(95ps)へと置き換わっています。

ここは押さえておきたいところで、初代に6気筒モデルは存在しません。T60とT70という型式の違いも、エンジンの気筒数ではなく、排気量とボディ形態による区分でした。マークIIが直列6気筒という上級車の記号を手に入れるのは、次の世代を待つことになります。

つまり初代は、6気筒という飛び道具を持たないまま、ボディサイズと内装の質感、そして静粛性だけで「コロナより上」を成立させたクルマだったわけです。

セダンだけでは終わらない展開力

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初代マークIIの特徴のひとつに、ボディバリエーションの豊富さがあります。4ドアセダンを基本としつつ、2ドアハードトップ、ステーションワゴン、バン、さらにはピックアップまで用意されていました。コロナ譲りの実用車としての性格を残しつつ、幅広い顧客層をカバーしようという商品企画の意図がはっきり見えます。

特に2ドアハードトップは、当時のアメリカ車の影響を受けたスタイリッシュなデザインで、若い層にも訴求しました。実用性と見栄えの両方を一台のシリーズで賄おうとする発想は、後のマークII三兄弟(マークII/チェイサー/クレスタ)の原型とも言えるかもしれません。

「コロナの上」から「マークII」へ

初代マークIIは商業的に成功しました。コロナでは物足りないが、クラウンには手が届かない——その層をきっちり捕まえたのです。ただ、成功したからこそ、ひとつの矛盾が浮かび上がります。

それは「コロナの名前がむしろ足かせになる」という問題でした。マークIIを買う人は、コロナより上のクルマが欲しくて選んでいます。なのに名前に「コロナ」がついていると、どうしてもコロナの延長に見えてしまう。この微妙な心理的ギャップは、後の世代で「コロナ」の名前が外れ、単に「マークII」として独立していく伏線になっていきます。

実際、1972年1月に登場した2代目(X10/X20系)では型式がT系からX系へと切り替わり、ここで初めて直列6気筒が加わりました。そして1984年8月に登場した5代目(X70系)で、ついに車名から「コロナ」の文字が外れました。初代T60/T70系は、マークIIが「コロナの派生」から「独立した上級セダン」へと歩み始めた、まさに第一歩だったわけです。

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時代が求めた「ちょうどいい上質」

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1960年代末の日本は、高度経済成長の真っただ中にありました。所得が上がり、クルマに対する要求も「走ればいい」から「少しでもいいものに乗りたい」へと変わりつつあった時代です。コロナ マークIIは、まさにその空気を読んで生まれたクルマでした。

振り返ってみると、T60/T70系の設計そのものに革新的な技術があったかと言えば、正直そこまでではありません。コロナの資産を活かした堅実な設計であり、飛び道具はありませんでした。

しかし、ボディの拡大、内装の質感向上、静粛性の作り込みという「わかりやすい格上げ」を的確に積み重ねたことで、市場のニーズにぴたりとはまったのです。

派手さはなくても、商品企画の精度が高い。これは後のマークIIシリーズ全体に通じる特徴でもあります。初代T60/T70系は、その遺伝子の出発点として、トヨタの車種戦略を語るうえで外せない一台です。

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