インプレッサ WRX STI – GRB/GVB【最後の「インプレッサ」を名乗ったSTI】

「インプレッサ WRX STI」という名前でデビューした最後の世代。そう言うと少し感傷的に聞こえますが、GRB/GVBの話はもう少し複雑です。

ハッチバックで始まり、途中からセダンが追加され、そして次の世代では「WRX」がインプレッサから独立していく。

つまりこの世代は、スバルのスポーツモデル戦略が大きく転換する直前に立っていた車なんです。

ハッチバックで始まった異例のSTI

2007年10月、3代目インプレッサ(GH系)をベースにしたWRX STIが登場しました。型式はGRB。

ここで多くの人が驚いたのは、ボディがハッチバックだったことです。それまでのSTIといえばセダンが定番で、WRCの戦闘機というイメージと直結していました。

5ドアハッチバックのSTIというのは、少なくとも日本市場では初めてのことです。

背景にはいくつかの事情があります。まず、ベースとなる3代目インプレッサ自体がハッチバック中心のラインナップに移行していたこと。

グローバル市場、とくに欧州ではハッチバックの需要が高く、スバルとしてもインプレッサの商品構成をそちらに寄せていた時期です。さらに、WRC参戦車両がハッチバックベースだったことも無関係ではありません。

ただ、国内のSTIファンからは「セダンはどうした」という声が少なからず上がりました。この反応が、後のGVB追加に繋がっていくことになります。

EJ20の最終進化形という意味

GRBに搭載されたエンジンは、EJ20型 2.0L水平対向4気筒ターボ。最高出力308ps、最大トルク43.0kgf·mというスペックは、先代GDB後期のスペックCなどと数値上は大きく変わりません。

しかし中身はかなり手が入っています。

ツインスクロールターボの採用による低回転域からのレスポンス改善、等長エキゾーストマニホールドの継続採用、そしてSI-DRIVEによる3モードの出力特性切り替え。とくにSI-DRIVEは、インテリジェント/スポーツ/スポーツシャープの3段階で、同じエンジンをまったく違うキャラクターに変える仕組みです。これは単なる電子制御の追加ではなく、「STIを日常でも使いたい」というユーザー層の広がりに対する回答でした。

EJ20というエンジン自体は1989年の初代レガシィから続く設計で、この時点ですでに約20年選手です。それでもスバルがこのエンジンを使い続けた理由は、水平対向の低重心という物理的メリットと、長年の熟成で得られた信頼性・チューニングの幅にありました。GRB/GVBは、その最終進化形に近い存在です。

DCCDとシャシーの深化

駆動系の核心は、やはりDCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)です。GRBでは電子制御と機械式の複合制御がさらに進化し、前後トルク配分を状況に応じて最適化します。マニュアルモードでドライバーが自分で配分を調整できるのも、STIならではの特徴です。

フロントにヘリカルLSD、リアに機械式LSD(トルセンもしくはオプションで機械式)を組み合わせた四輪駆動システムは、単に「4WDだから速い」という話ではありません。コーナリング中にどの輪にどうトルクを配るかを、ドライバーの意思と車両の状態の両方から制御する。この思想は、ラリーで培われたスバルの哲学そのものです。

シャシー面では、3代目インプレッサで刷新されたプラットフォームの恩恵が大きい。ホイールベースは先代GDBから25mm延長され2,625mmに。ボディ剛性も大幅に向上しています。結果として、先代が持っていたやや神経質な挙動が抑えられ、高速域での安定感が明確に増しました。

GVB──セダン復活の意味

2010年7月、待望のセダンボディが追加されました。型式はGVB。正確には「WRX STI A-Line」のセダン版が先行し、その後6速MT仕様のSTIセダンが追加されるという段階的な展開でした。

このGVBの追加は、単にファンの声に応えただけではありません。北米市場ではセダンの需要が根強く、STIの販売ボリュームを考えると4ドアセダンの不在は商品戦略上の穴でした。また、ハッチバックのGRBはリアの剛性や重量配分の面でセダンとは異なる特性を持っており、「よりシャープなハンドリングを求めるならセダン」という棲み分けも成立しました。

実際、GVBはGRBに対してリアまわりの剛性が高く、旋回時のリアの追従性に優れるという評価が多く聞かれます。ホイールベースやトレッドは同一ですが、ボディ形状の違いが走りの味に影響するのは、こうしたハイパフォーマンスカーでは珍しくありません。

spec CとtS──STIがさらに磨いた特別仕様

GRB/GVB世代でも、STI(スバルテクニカインターナショナル)によるコンプリートカーが複数設定されました。なかでも注目すべきはspec CtSです。

spec Cは軽量化と冷却性能の強化を軸にしたグレードで、エアコンレス仕様も選択可能。ボールベアリングターボの採用でレスポンスをさらに鋭くし、サーキット志向のユーザーに向けた仕様です。一方のtSは、ビルシュタイン製ダンパーや専用チューニングの足まわりを持ち、STIが考える「公道での最適解」を形にしたモデルでした。

こうした特別仕様の存在は、GRB/GVBが単なる量産スポーツカーではなく、STIというブランドの実験場でもあったことを示しています。ニュルブルクリンク24時間レースへの参戦車両もこの世代がベースであり、モータースポーツとの接点は途切れていませんでした。

最後の「インプレッサSTI」が残したもの

GRB/GVBの後、スバルは2014年に「WRX STI」をインプレッサから独立させます。型式でいえばVAB。つまりGRB/GVBは、「インプレッサ WRX STI」というひとつの系譜の最終章にあたるわけです。

振り返ると、この世代が担った役割は意外と重い。

ハッチバックという新しい器を試し、セダンの価値を再確認し、SI-DRIVEで日常性を広げ、DCCDの電子制御を深化させた。EJ20の熟成もここでほぼ頂点に達しています。

派手なスペック向上こそありませんでしたが、「STIとは何か」を多角的に問い直した世代だったと言えます。

GDB時代の荒々しさを愛するファンからすると、GRB/GVBは少し大人しくなったように映るかもしれません。

でもそれは、スバルがSTIを「一部のマニアのための車」から「もう少し広い層に届くスポーツカー」へと再定義しようとした結果です。

その試みが正しかったかどうかは評価が分かれますが、少なくともこの判断がなければ、WRXの独立という次のステップには進めなかったはずです。

最後のインプレッサSTI。その肩書きは、終わりであると同時に、次の始まりへの橋渡しでもありました。

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