カテゴリー: Subaru

  • WRX S4(VBH)の中古車ガイド【新しい車を中古で買うときに見るところ】

    WRX S4(VBH)の中古車ガイド【新しい車を中古で買うときに見るところ】

    2021年11月に登場したVBH型WRX S4は、中古車としてはまだ新しい世代です。だから、この記事で書くべきことは他の車と違います。

    持病を探す段階ではありません。 いま見るべきは、リコールが消化されているか、メーカー保証がどれだけ残っているか、そしてグレードによる中身の差です。

    中身を先に押さえておきます。エンジンはFA24型2.4L直噴ターボで275馬力・375N・m、駆動は左右対称のAWD、変速機はスバルパフォーマンストランスミッション(SPT)と呼ばれるCVT。骨格はスバルグローバルプラットフォームにフルインナーフレーム構造を組み合わせています。先代VAG型とは、車名以外にほぼ共通点がありません。

    まず、先代VAG型の情報と混ぜないこと

    WRX S4 VBH
    画像:Tokumeigakarinoaoshima/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons

    WRX S4を調べると、「A型のCVTに初期不具合がある」「C型以降が無難」といった情報が出てきます。これは先代のVAG型(2014〜2021年)の話であって、VBH型のことではありません。

    VBH型は型式も骨格もエンジンも別物です。FA24型2.4L直噴ターボ、スバルグローバルプラットフォームにフルインナーフレーム構造、そしてスバルパフォーマンストランスミッション(SPT)と呼ばれる新しいCVT。先代と共通しているのは車名だけと言っていい世代です。

    中古を探すときに世代を混同すると、見なくていい心配をして、見るべきものを見落とします。まず「VAGかVBHか」を分けてください。

    見分け方は簡単です。車検証の型式が「5BA-VBH」ならこの世代。年式で言えば2021年11月以降の登録です。中古車サイトの掲載名は曖昧なことがあるので、型式で確認するのが確実です。

    リコールと保証を、車台番号で確認する

    WRX S4 VBH
    画像:Tokumeigakarinoaoshima/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons

    VBH型は登場から数年のあいだに、複数のリコールとサービスキャンペーンの対象になっています。運転支援装置のカメラの画像認識プログラムに関するサービスキャンペーン(2022年5月届け出、5BA-VBHの一部が対象)や、2024年1月に届け出された低圧燃料ポンプのリコールなどです。

    新しい車ほど、ここが購入判断の中心になります。中古車としての程度を見る前に、対策が済んでいるかを確認してください。 スバルの公式サイトには車台番号で対象と対応状況を調べられる仕組みがあり、販売店にも確認できます。

    同時に見ておきたいのがメーカー保証です。一般保証は3年6万km、特別保証は5年10万kmが基本で、初度登録から数年の個体ならまだ保証が生きている可能性があります。保証継承の手続きがされるか、費用はどちらが負担するかは、購入前に決めておいたほうがいいでしょう。この一点で、同価格帯の他の中古車より有利になり得ます。

    加えて、スバルの認定中古車として販売されている個体なら、点検整備と保証がセットになります。同じVBHでも、認定中古車とそれ以外では価格差がありますが、その差は保証の価値とほぼ釣り合うことが多い。まだ新しい高出力ターボ車で保証が切れている個体を、あえて選ぶ理由は多くありません。

    グレードで中身が変わる

    https://kuruma-dna.com/grb

    中古で選ぶときの実務的な順番としては、まず車型と年式を決め、次に電子制御ダンパーの有無、そのあとで色と装備、という順になります。VBHはまだ玉数がそこまで多くないので、条件を増やすほど選べなくなります。

    VBH型で最も走りに差が出るのは、電子制御ダンパーの有無です。最上位のSTI Sport R EXにはSTIがチューニングに関与したZF製の電子制御ダンパーが備わり、ドライブモードセレクトでダンパーの減衰力、ステアリング特性、AWDのトルク配分、CVTの制御をまとめて切り替えられます。

    これは装備の差というより、乗り味そのものの差です。試乗できるなら、両方に乗ってから決める価値があります。中古価格の差も、この装備が理由の大部分を占めます。

    グレード構成としては、GT-H EX、STI Sport R EXといった呼び名が使われます。装備の差は電子制御ダンパーだけでなく、内装の素材、シート、ホイールにも及びます。中古で「同じVBHなのに価格が違う」と感じたら、まずこの装備差を確認してください。

    そしてもうひとつ、外装色と内装色の組み合わせで人気に差が出ます。玉数が限られる時期は、色で妥協するかどうかが購入時期を左右します。

    もうひとつ、アイサイトXの搭載有無とナビ連携の仕様も確認してください。VBH型はスバルのスポーツセダンとして初めてアイサイトXを標準装備した世代ですが、グレードやオプションで機能範囲が変わります。

    中古として見たときの弱点らしい弱点

    https://kuruma-dna.com/gdb

    加えて、この世代は先進安全装備が全車標準です。フロントガラスを交換した履歴がある個体では、アイサイトのエーミング(光軸と認識の調整)が正しく行われているかを確認してください。未実施だと、運転支援が正しく働きません。

    樹脂製フェンダー。 VBH型のデザイン上の特徴であるクラッディング部分は樹脂製です。金属と違って錆びない一方で、経年で白っぽくボケてくることが考えられます。まだ年数が浅いので実例は多くありませんが、屋外保管の個体では確認しておきたい部分です。気になる場合は塗装するという選択肢もあります。

    CVTをどう捉えるか。 VBH型にMTの設定はありません。SPTはステップ変速制御を含めてスポーツ走行を想定した作りですが、「STIの代わり」を期待して乗ると違和感が残る可能性があります。これは故障の話ではなく、期待値の問題です。中古で買う前に必ず試乗してください。

    試乗するときは、モードを切り替えながら走ってみてください。SPTはステップ変速の制御を持ち、モードによって性格が変わります。「CVTだから」と一括りにして判断すると、この車の設計意図を見誤ります。

    電動パーキングブレーキ。 近年の車全般に言えることですが、機構が電動化されているぶん、モーター側の不具合が起きると解除できなくなるリスクがあります。試乗時に確実に作動・解除するか確かめておきましょう。

    現車確認で見るべきポイント

    https://kuruma-dna.com/gc8

    試乗では、SPTのステップ変速制御を確かめてください。アクセルを深く踏んだときに回転がひと続きに上がるのか、段を刻むのか。ここがCVTに対する印象を決めます。「CVTだから嫌だ」と決めつける前に、一度乗ってから判断してください。

    • リコール・サービスキャンペーンの消化状況:車台番号で確認。未実施なら購入前に対応を依頼する
    • メーカー保証の残存と継承:初度登録日と走行距離。継承手続きの可否と費用負担
    • グレード:STI Sport R EXか否か。電子制御ダンパーの作動をモード切り替えで確認
    • アイサイトの作動:警告灯、カメラまわりの状態、フロントガラス交換歴(交換時はエーミングが必要)
    • 樹脂部分:クラッディングの色ヤケ、傷
    • タイヤ:純正サイズは太く高価。残溝が少なければ購入直後に出費
    • 電動パーキングブレーキ:作動と解除

    この車に手を出してよい人、やめた方がよい人

    https://kuruma-dna.com/zd8

    維持費の目安も書いておきます。2.4Lで自動車税は4万3500円の区分、実燃費は街乗り8〜10km/L程度でハイオク指定。タイヤは19インチで交換費用は安くありません。ただし、この動力性能と装備を新車で買う場合と比べれば、中古の価格差のほうがはるかに大きい。

    向いている人は、速さと快適さと安全装備を一台で成立させたい人です。VBH型は「STIがない前提で設計されたスポーツセダン」であり、その割り切りのぶん、日常性能とアイサイトXの完成度が高い。新車より安く、保証が残る個体を選べるなら、コストパフォーマンスは高いと言えます。

    やめた方がよい人は、MTでなければ嫌な人です。ここは設計上どうにもなりません。素直に先代のVAB型STI、あるいはGRB/GVBを探したほうが幸せです。

    結局、VBHの中古は買いなのか

    https://kuruma-dna.com/zc6

    リコールが消化済みで、保証が残っている個体なら買いです。 まだ新しい世代なので、程度の差より書類の差のほうが大きく効きます。逆に言えば、そこさえ確認できれば、中古で買うリスクは他の世代より明らかに低い。

    STIという名前が消えた時代に、スバルがスポーツセダンとして出した答えがこの車です。その答えに納得できるかどうかは、カタログではなく試乗でしか分かりません。

  • インプレッサ WRX STI(GRB/GVB)の中古車ガイド【EJ20最後の世代を、壊さずに買う】

    インプレッサ WRX STI(GRB/GVB)の中古車ガイド【EJ20最後の世代を、壊さずに買う】

    308馬力のEJ207、DCCD、そして「インプレッサ」を名乗る最後のSTI。GRB/GVBは、スバルのスポーツセダン/ハッチが最も濃かった時代の終着点です。

    中古市場では、状態と年式で価格差が非常に大きい世代でもあります。そしてその価格差には、ちゃんと理由があります。

    前提を整理しておきます。GRBは2007年10月に登場したハッチバックで、2010年にはセダンのGVBが加わりました。エンジンは水平対向4気筒ターボのEJ207型で308馬力・43.0kgf·m。駆動はDCCDを備えた四輪駆動、変速機は6速MT。「インプレッサ」を名乗った最後のSTIです。

    年式(型)で中身が違う。まずここを押さえる

    インプレッサ WRX STI GRB
    画像:Calreyn88/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons

    GRBは2007年10月の登場から、毎年のように改良が入っています。中古で選ぶときは、走行距離より先に「何型か」を確認してください。

    特に議論が多いのが、初期のA型です。オーナーの間では、いわゆる「棚落ち」と呼ばれるピストンまわりの損傷によるエンジンブローが語られ続けてきました。起きた場合はエンジン載せ替えとなり、ディーラーで80万円、町工場でも60万円以上という金額が挙がります。

    ここは正確に書いておきます。これはメーカーが認めたリコールではなく、オーナーコミュニティで長く共有されてきた経験則です。 すべてのA型が危ないわけでも、B型以降なら絶対安全なわけでもありません。ただ、中古を選ぶ立場としては、初期型を避けるか、あるいはエンジンに手が入っている記録を確認するというのは、合理的な判断です。

    2010年に追加されたGVB(セダン)や、その後のspec C、tSといった特別仕様も、年式ごとに装備と味付けが違います。狙いを決めてから探すほうが結果的に早いでしょう。

    整理すると、ハッチバックのGRBは実用性と取り回し、セダンのGVBは剛性と見た目の好み、spec Cは軽量化と競技志向、tSはSTIが仕立てた快適寄りの特別仕様、という住み分けになります。中古価格もこの順で傾向が出ます。

    なお、この世代は年次改良の幅が大きく、同じ「GRB」でも足まわりの設定やDCCDの制御が違います。試乗できるなら、複数の型に乗って比べる価値があります。

    この世代で語られる持病

    インプレッサ WRX STI GRB
    画像:BrokenSphere/CC BY 3.0(Wikimedia Commons

    パワーステアリングポンプからのオイル漏れ。 GRBの初期で有名な持病のひとつです。対策品への交換で5万円前後という金額が挙がります。エンジンルームを覗いて、ポンプ周辺やその下の滲みを確認してください。

    これらはいずれも「起きたら困るが、直せば戻る」種類の故障です。金額の目安としては、パワステポンプが5万円前後、二次エア関連が7万円前後。エンジン載せ替えの60〜80万円と比べれば、桁がひとつ違います。 中古選びで神経を使うべきは、あくまでエンジン本体のほうです。

    二次エア導入装置(二次エアバルブ)の固着。 排気の浄化のために使われるバルブが錆で固着する症状で、こちらは7万円前後という数字が語られます。警告灯が点いて初めて気づくことが多く、車検前に発覚すると面倒です。

    エンジン前側からのオイル漏れ。 カムシャフト側のシール、あるいはオイルポンプの締結部の緩みが原因として挙げられます。水平対向はもともと合わせ面が多く、年数が経てば滲みは出ます。問題は「滲み」で止まっているか、「漏れ」まで進んでいるかです。

    ラジエターの樹脂部の劣化。 年式相応の話で、上下のタンク部から漏れます。冷却系はEJのターボ車にとって死活問題なので、リザーバータンクの液量と色、周辺の結晶化した跡は必ず見てください。

    加えて、この世代でよく話題になるのがプラグとイグニッションコイルです。水平対向はプラグ交換の作業性が悪く、工賃が高くつきます。交換時期を過ぎている個体は、購入後すぐに費用が発生すると考えてください。

    クラッチも同様です。6速MTのクラッチは、ブーストを上げた個体や競技使用の個体では確実に消耗しています。試乗では坂道発進での滑り、繋がる位置、踏力を確かめてください。

    チューニング歴をどう見るか

    https://kuruma-dna.com/vbh

    販売店の説明で「ノーマル戻し済み」と書かれている個体には、特に注意してください。戻したということは、何かをやっていたということです。何を、どこまでやったのかを聞いて、答えられないなら見送るのが安全です。

    この世代は、ブーストアップやECU書き換え、タービン交換といった改造の裾野が非常に広い車です。そしてEJ207は、素の状態では頑丈でも、無理な過給と熱が入ると一気に痛むエンジンでもあります。

    見るべきは、社外パーツの有無そのものより「何をどこまでやったか」です。マフラーと吸気系だけなら実害は小さい。一方でECUに手が入り、ブースト圧を上げた履歴がある個体は、エンジン内部にダメージが蓄積している可能性があります。しかもECUはノーマルに戻せてしまうので、外観からは判断できません。

    だから質問の仕方が重要になります。「ノーマルですか」ではなく、「ECUに手を入れた履歴はありますか」「前オーナーはサーキットに行っていましたか」と具体的に聞いてください。曖昧に濁される場合は、それ自体が答えです。

    ブースト計や油温計などの追加メーターが後付けされていた跡(配線の引き回し、ピラーの穴)も手がかりになります。外した跡が残っている個体ほど、何かをやっていた可能性が高い。

    サーキット走行歴のある個体も同様です。タイヤの偏摩耗、ブレーキローターの状態、追加された油温計や油圧計の跡、ロールバーの取り付け穴。こうした痕跡から使われ方を推測してください。

    逆に、記録簿がしっかり残っていて、消耗品が定期的に換えられ、エンジンに手が入っていない個体は、多少高くても買う価値があります。この世代は、車両価格の差より、購入後にかかる金額の差のほうが大きいからです。

    逆に、ここは安心していい

    https://kuruma-dna.com/vab

    維持費の目安も持っておきましょう。2.0Lターボの四輪駆動で、自動車税は3万9500円の区分。実燃費は街乗りで7〜9km/L程度、ハイオク指定です。タイヤは18インチで、4本交換すればまとまった額になります。

    加えて、この車はブレーキとタイヤの消耗が速い。踏める車ほど、消耗品の交換周期は短くなります。車両価格の安さより、年間の維持費で判断してください。

    駆動系の素性。 DCCDを含むAWDシステムと6速MTは、この車の核であり、素の状態で酷使に耐える設計です。オイル管理をしていれば、走行距離が伸びても大きく崩れる部分ではありません。

    部品供給。 STIとして販売された台数が多く、社外パーツも豊富です。同世代のインプレッサ(GH/GR系)と共通する部品も多いため、消耗品で困る場面は少ないでしょう。

    素性のよさが残っている個体は、直せば戻る。 ボディ剛性やサスペンションの設計が素直なので、ブッシュやダンパーをリフレッシュすると走りが明確に若返ります。20万km級でも、手を入れる価値のある車です。

    現車確認で見るべきポイント

    https://kuruma-dna.com/gc8

    試乗では、必ず直線でフル加速までは踏まないまでも、3000rpm付近まで回してみてください。ブーストの立ち上がりに段付きがないか、白煙が出ないか、そして異音がないか。アイドリングだけでは、ターボ車の状態は分かりません。

    • 型(年式):A型か、B型以降か。A型なら、エンジンに手が入っているかの記録
    • エンジン始動時:冷間で異音がないか、白煙が出ないか
    • エンジンルーム:パワステポンプ周辺、カムカバー、オイルポンプ付近の滲み
    • 警告灯:二次エア関連のチェックランプ履歴
    • 冷却系:リザーバータンクの液量と色、ラジエター上下の漏れ跡
    • 改造履歴:ECU、ブースト圧、タービン。書き換え履歴は必ず口頭で確認する
    • 記録簿:オイル交換の頻度が最重要。ターボ車で記録の無い個体は避ける

    この車に手を出してよい人、やめた方がよい人

    https://kuruma-dna.com/zc6

    向いている人は、EJ20という運命の決まったエンジンを、いま体験しておきたい人です。2019年のファイナルエディションで四半世紀の歴史が終わったこのエンジンを、日常的に回せる機会はこれから確実に減っていきます。整備を織り込んで所有できるなら、価格以上の満足があります。

    やめた方がよい人は、維持費を抑えたい人です。ターボ+AWDは消耗が早く、タイヤもブレーキもオイルも一般的なセダンの比ではありません。壊れたときの金額も大きい。「安くなったスポーツセダン」として選ぶには、リスクの読みが難しい世代です。

    結局、GRB/GVBの中古は買いなのか

    https://kuruma-dna.com/zd8

    記録簿があり、エンジンがノーマルで、B型以降。 この条件なら買いです。GRB/GVBは、EJ20の完成度が最も高い時期の車で、しかもDCCDを含む駆動系はいまでも十分に通用します。

    逆に、A型で記録が不明、あるいはECUに手が入った個体は、安くても避けてください。この世代で最も高いのは車両価格ではなく、エンジンを載せ替える費用です。

  • インプレッサ WRXとは

    WRXは、ラリーで勝つために生まれ、ラリーをやめてからも走り続けたクルマです。

    1992年のGC8が始まりでした。レガシィで戦っていたスバルが、より短く軽い車体を求めて用意したのがインプレッサです。水平対向4気筒ターボのEJ20型と四輪駆動という構成はそのまま持ち込み、車体だけを小さくした。狙いは明確で、WRCで勝つことでした。

    結果はご存じのとおりです。1995年から3年連続でマニュファクチャラーズタイトルを獲り、青と金の塗り分けは日本車のラリー像そのものになりました。1998年には400台限定の22B STiという、ワイドボディの記念碑まで生まれています。

    2000年のGDBは、その戦績を引き継いだ世代でした。丸目、涙目、鷹目と、一代のうちに顔を三度変えた珍しいクルマでもあります。市販車としての完成度はGC8より明らかに上で、STiが手を入れたモデルは日本のスポーツセダンの基準になりました。

    2007年のGRBでハッチバックへ移行し、賛否が割れます。ラリーの現場でも、市販車の売り方でも、ここが転換点でした。そして2008年末、スバルはWRCからの撤退を発表します。勝つために作るという前提が、ここで消えました。

    2014年のVABでは、車名から「インプレッサ」が外れて独立します。EJ20型を積む最後の世代となり、2019年のファイナルエディションで、四半世紀続いたこのエンジンの歴史が終わりました。

    2021年のVBH、WRX S4はFA24型へ切り替わり、STIの名を持つモデルは用意されていません。ラリーという目的も、STIという記号も失ったうえで、それでも四駆ターボのセダンを出し続ける。いまのWRXが背負っているのは、そういう問いです。

    GC8からVBHまで、5世代。WRXの歴史は、モータースポーツで得た評判を、その舞台を降りたあとにどう使うかという課題の記録です。

  • BRZとは

    スバルというメーカーを支えてきた柱は、水平対向エンジンとシンメトリカルAWDの二本でした。BRZは、そのうち片方だけを持ち込んだクルマです。

    2012年の初代ZC6は、トヨタとの共同開発として生まれました。トヨタ側の車名は86。スバルは水平対向エンジンと生産を受け持ち、トヨタはD-4S、つまり直噴とポート噴射を併用する燃料供給システムを持ち込みます。2.0LのFA20型は200PS・205N・mと、数字だけ見れば平凡でした。

    狙いは最高出力ではなかったからです。水平対向はシリンダーが左右に寝ているぶん背が低く、そのままエンジンを低く積めます。重心を下げ、車重を1.2トン台に抑え、幅の狭いタイヤを履かせる。四輪が路面をつかむ限界を意図的に低いところへ置いて、その手前で起きることを運転手に全部見せる。これがZC6の設計思想でした。

    AWDを外したことも、その延長線上にあります。四駆で速さを稼ぐのではなく、後輪だけで曲がることをドライバーに任せる。スバルにとっては、自社の看板を一枚外してでも作りたいクルマだったわけです。

    2021年の2代目ZD8は、初代への不満に正面から答えた世代でした。排気量を2.4Lへ拡大したFA24型は235PS・250N・mで、初代が指摘され続けた中回転域のトルクの谷を埋めています。ボディの構造用接着剤やフルインナーフレーム構法によって剛性も大きく上がりました。

    それでいて、車体の低さも軽さも手放していません。速くはなったものの、性格は変わらなかった。同じ骨格を使うGR86に対して、BRZは足まわりの味つけで自分の答えを出しています。

    ZC6からZD8まで、2世代。BRZの歴史は、AWDの会社が「四駆でなくても操る楽しさは作れる」と証明し続けた記録です。

  • BRZ – ZC6【スバルが自分の名前で出した、トヨタとの共作FR】

    BRZ – ZC6【スバルが自分の名前で出した、トヨタとの共作FR】

    スバルがFR車を出す。

    2012年当時、この一報だけで驚いた人は少なくなかったはずです。AWDの会社が、なぜ後輪駆動のスポーツカーを作るのか。しかもトヨタとの共同開発で。BRZ(ZC6)の話は、スペックの前にまずこの「なぜ」から始める必要があります。

    スバルがFRを作った理由

    https://kuruma-dna.com/zd8

    スバルといえば水平対向エンジンとシンメトリカルAWD。レガシィもインプレッサもフォレスターも、基本的にはこの組み合わせで成り立ってきたブランドです。FRスポーツカーなんて、少なくとも2000年代のスバルのラインナップにはまったく存在しませんでした。

    話の起点はトヨタ側にあります。トヨタの豊田章男社長(当時)が「手の届くFRスポーツカーをもう一度作りたい」という強い意志を持っていたことは広く知られています。ただ、トヨタには小排気量のFR向けエンジンを新規開発する余裕も、専用プラットフォームをゼロから起こす合理性もなかった。

    そこで白羽の矢が立ったのがスバルの水平対向エンジンです。全高が低く、重心を下げやすいこのエンジン形式は、FR車のフロントに収めたとき理想的なパッケージを生む可能性がありました。2005年にトヨタがスバル(当時は富士重工業)に出資して以降、両社の関係は深まっていた。その延長線上で、この共同開発プロジェクトが動き出します。

    「低重心」を設計思想の中心に据えた

    https://kuruma-dna.com/vab

    BRZの開発で一貫していたのは、「とにかく重心を下げる」という設計思想です。水平対向エンジンのFA20型は、ボクサーエンジンとしての低さをさらに活かすため、ドライサンプではなくウェットサンプながらもオイルパンの形状を工夫し、エンジン搭載位置を可能な限り低く、後方に配置しました。

    結果として実現した重心高は約460mm。これは当時の同クラスのスポーツカーと比べてもかなり低い数値です。数字だけ見てもピンとこないかもしれませんが、ロードスターやシルビアといった歴代の軽量FRと比較しても明確に低い。この「低重心」は単なるカタログ上の売り文句ではなく、実際の走行フィールに直結する設計判断でした。

    エンジンそのものも注目に値します。FA20型は排気量1,998cc、自然吸気の水平対向4気筒。トヨタのD-4S(直噴+ポート噴射の併用システム)を組み合わせることで、200馬力・20.9kgf·mというスペックを実現しています。数字だけ見ると控えめに映りますが、車両重量が約1,230kgに抑えられているため、パワーウェイトレシオは十分に実用的です。

    ターボではなく自然吸気を選んだのも意図的です。開発陣は「アクセル操作に対してリニアに反応するエンジン特性」を重視しました。ドライバーの操作と車の挙動が直結する感覚。それがBRZの走りの核心であり、大パワーで押し切るタイプのスポーツカーとは明確に異なる方向性です。

    86との違いはどこにあったのか

    https://kuruma-dna.com/grb

    BRZを語るうえで避けて通れないのが、トヨタ 86(ZN6)との関係です。プラットフォーム、エンジン、基本骨格は共通。生産もスバルの群馬製作所が担当しています。では何が違うのか。

    端的に言えば、味付けの方向性です。サスペンションのセッティングが異なり、BRZはやや硬め、安定志向寄りに仕上げられていました。トヨタ 86がテールを流す楽しさ、つまりドリフト的な挙動の許容を意識していたのに対し、BRZはグリップ走行時の安心感や正確さを重視する傾向がありました。

    もっとも、この違いは年式やグレードによっても変化しており、「86は遊べる、BRZは真面目」という単純な図式で片づけるのは少し乱暴です。ただ、開発に携わったスバルのエンジニアが「スバルとしての走りの質を担保したかった」と語っていたように、同じ車体でもブランドとしての矜持の出し方が異なっていたのは確かです。

    外観の差異はフロントバンパーやグリルのデザインが中心で、ボディシルエットはほぼ共通。インテリアも大きくは変わりません。それでも、スバルのエンブレムがついたFRスポーツカーという事実そのものが、BRZの独自性を形作っていました。

    市場での立ち位置と評価

    https://kuruma-dna.com/vbh

    2012年の発売当初、BRZと86は大きな話題を呼びました。手頃な価格帯の新車FRスポーツカーが、国産メーカーからほぼ絶滅していた時代です。シルビアは2002年に生産終了、MR-Sも2007年に消えていた。ロードスターは健在でしたが、クーペボディの選択肢はほとんどなかった。

    BRZの新車価格は約205万円から。2リッター自然吸気のFRクーペがこの価格帯で買えるというのは、当時としてもかなり戦略的な設定でした。トヨタとの共同開発によるコスト分担がなければ、この価格は実現しなかったでしょう。

    一方で、発売後しばらくすると「もう少しパワーが欲しい」「トルクの谷が気になる」という声も出てきます。特に2,000〜4,000rpm付近のトルク感の薄さは、街乗りでの扱いやすさという点で課題とされました。スバル自身もこれを認識しており、2016年のマイナーチェンジ(通称D型以降)ではエンジンの吸排気系を見直し、中回転域のトルク特性を改善しています。

    足回りについても年次改良のたびにダンパーやスプリングのセッティングが見直され、後期型になるほど乗り味の洗練度が増していきました。初代BRZは「完成品として出てきた」というより、「年次改良で育てられた車」という側面が強いモデルです。

    スバルにとってのBRZという存在

    https://kuruma-dna.com/gdb

    販売台数だけを見れば、BRZはスバルの屋台骨を支えるような車ではありません。主力はあくまでフォレスターやレヴォーグ、アウトバックといったAWDモデルです。それでもBRZがラインナップに存在する意味は、数字以上に大きかったと言えます。

    まず、スバルというブランドに「走りの会社」というイメージを維持させる役割。WRX STIと並んで、BRZはスバルのスポーツイメージを支えるアイコンでした。しかもWRXがAWDターボという従来路線の延長であるのに対し、BRZはFR・NAという全く異なるアプローチ。スバルの引き出しの広さを示す存在でもあったわけです。

    さらに、トヨタとの協業関係を象徴するモデルでもありました。資本関係を超えて、実際にひとつの車を一緒に作り上げたという事実。これはその後の両社の関係、ひいては次世代BRZ/GR86の開発にもつながっていきます。

    そしてもうひとつ。水平対向エンジンがFRレイアウトで使えることを、量産車として証明した意義です。スバルの水平対向は長らくAWDとセットで語られてきましたが、BRZはその固定観念を崩しました。低重心というボクサーエンジンの本質的な強みを、最もわかりやすい形で引き出したのがこの車だったとも言えます。

    初代が残したもの

    https://kuruma-dna.com/gc8

    ZC6型BRZは2012年から2020年まで、約8年間にわたって販売されました。その間に大きなフルモデルチェンジはなく、年次改良を重ねながら熟成されていった一台です。

    2021年に登場した2代目BRZ(ZD8)は、排気量を2.4リッターに拡大し、初代で指摘されたトルク不足を正面から解消してきました。プラットフォームも刷新され、ボディ剛性は大幅に向上。初代で積み残した課題を、きちんと次で回収した格好です。

    ただ、初代BRZが持っていた「軽さゆえの軽快感」や「荒削りだけど素性のよさが伝わる走り」は、初代ならではの味わいとして評価する声も根強くあります。完成度では2代目が上でも、原石としての魅力は初代にある。そういう見方をする人は少なくありません。

    ZC6型BRZは、スバルが自社の名前でFRスポーツを世に出すという、ブランド史上でも異例の挑戦でした。トヨタとの共同開発という枠組みの中で、それでもスバルらしさを刻もうとした一台。

    その意味では、技術的な成果物であると同時に、スバルの意地の結晶でもあったのだと思います。

  • BRZ – ZD8【AWDの会社が育てた、FRスポーツのもう一つの正解】

    BRZ – ZD8【AWDの会社が育てた、FRスポーツのもう一つの正解】

    二代目BRZは、初代と同じくトヨタとの共同開発車です。でも、初代と同じ意味で「兄弟車」と呼んでいいかというと、ちょっと違います。ZD8型のBRZには、スバルが「次はもっと自分たちの色を出す」と決めた痕跡がはっきり残っています。

    初代が残した宿題

    https://kuruma-dna.com/zc6

    2012年に登場した初代BRZ(ZC6)は、スバルにとって異例の一台でした。水平対向エンジンは自社製ですが、駆動方式はFR。スバルのアイデンティティであるAWDを捨てたクルマを、自分たちのブランドで売る。これは社内でも相当な議論があったと言われています。

    結果として初代は一定の成功を収めました。ただ、評価の中には「トヨタ86との違いがわかりにくい」という声が常につきまといました。味付けの差はあるものの、外から見れば同じクルマのバッジ違い。スバルとしては、もう少し独自の立ち位置がほしかったはずです。

    もうひとつの宿題は、パワーです。初代のFA20型エンジンは自然吸気で200馬力。軽さと回る楽しさを重視した設計でしたが、「もう少しトルクがほしい」という声は発売直後から根強くありました。とくに中間加速の薄さは、サーキットでもストリートでも指摘され続けた弱点です。

    FA24型への換装が意味すること

    https://kuruma-dna.com/vbh

    2021年に発表されたZD8型の最大の変更点は、エンジンです。排気量が2.0Lから2.4Lへ拡大され、FA24型に換装されました。最高出力は235馬力、最大トルクは250Nm。数字だけ見れば劇的な変化ではありませんが、トルクの出方がまるで違います

    FA24型はもともとスバルの北米向けモデルに搭載されていたユニットをベースにしています。つまり、まったくの新設計ではなく、既存の資産を活用した現実的な選択です。ただし、BRZ用にはかなり手が入っています。直噴化の最適化、吸排気系の専用チューニング、レスポンス重視のセッティング。排気量アップによるトルク増を、単に「速くなった」ではなく「扱いやすくなった」方向に振っているのがポイントです。

    初代で不満の多かった2000〜4000回転あたりの谷間が埋まったことで、日常域での運転が格段に楽になりました。これはスポーツカーとしての性能向上であると同時に、「毎日乗れるスポーツカー」という商品企画上の要請に応えた結果でもあります。

    プラットフォームは刷新、でもFRは変えない

    https://kuruma-dna.com/vab

    ZD8はスバルのSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)をベースにしています。ただし、インプレッサやレヴォーグに使われるSGPそのままではありません。FRレイアウトに合わせて大幅に改修された専用仕様です。

    フロントのボディ横曲げ剛性は初代比で約60%向上、ねじり剛性も約50%向上したとスバルは発表しています。数字だけ聞いてもピンとこないかもしれませんが、要するに「ボディがしっかりしたぶん、サスペンションがちゃんと仕事できるようになった」ということです。

    初代BRZは軽さが武器でしたが、剛性面ではやや物足りないという評価もありました。ZD8は車重が約20kg増えていますが、それ以上にボディ剛性の向上幅が大きい。結果として、ステアリングの正確さやコーナリング時の安定感は明確に進化しています。

    重心高は初代と同じく極めて低い水準を維持しています。水平対向エンジンをFRレイアウトで低く搭載するという基本構成は変わっていません。ここは「変えなかった」のではなく、「変える必要がなかった」と見るべきでしょう。初代で確立した物理的な強みは、そのまま二代目の土台になっています。

    GR86との距離感

    https://kuruma-dna.com/grb

    二代目でも兄弟車であるトヨタGR86は存在します。エンジンもプラットフォームも共有している以上、「中身は同じでしょ?」と思われがちです。実際、ハードウェアの共通度は高い。でも、ZD8ではスバル側の味付けがより明確になりました。

    わかりやすいのはサスペンションのセッティングです。BRZはGR86に比べて、リアの動きをやや穏やかに抑える方向で仕上げられています。GR86が「積極的にリアを流して楽しむ」方向だとすれば、BRZは「安定感の中でコントロールする」方向。どちらが正解というわけではありませんが、同じ素材から違う料理を作ろうとしている意志は明確です。

    スバルの開発陣は、ZD8の開発にあたって「安心して限界を探れるクルマ」という表現を使っています。これは初代の「とにかく軽くて楽しい」とは少し違うニュアンスです。速さよりも信頼感、刺激よりも懐の深さ。スバルが考える「運転の楽しさ」の定義が、二代目でより具体的になったと言えます。

    スバルにとってのFRスポーツという矛盾

    https://kuruma-dna.com/gdb

    そもそもスバルがFRスポーツカーを作ること自体が、ブランドの文脈からすると異質です。スバルといえば水平対向エンジンとシンメトリカルAWD。その両輪で走ってきたメーカーが、片方を捨てたクルマを看板商品のひとつにしている。この矛盾は、初代から二代目になっても解消されていません。

    ただ、矛盾を抱えたまま続けていること自体に意味があります。BRZがなければ、スバルのラインナップは実用車とSUVだけになります。WRX STIが生産終了した現在、スバルの「走り」を体現する市販車はBRZだけです。

    トヨタとの協業がなければ、この価格帯のスポーツカーをスバル単独で開発・生産し続けるのは難しかったでしょう。共同開発だからこそ成立するビジネスモデルの中で、それでも自社の色を出そうとしている。ZD8はその努力の結晶です。

    二代目が証明したこと

    https://kuruma-dna.com/gc8

    ZD8型BRZは、初代の成功と反省の両方を正直に受け止めたクルマです。パワーの不足は排気量拡大で解決し、ボディ剛性は新プラットフォームで底上げし、兄弟車との差別化はセッティングの哲学で表現した。どれも派手な飛び道具ではなく、正攻法の積み重ねです。

    電動化が進む時代に、自然吸気の水平対向エンジンを積んだFRスポーツカーがどこまで続くのかはわかりません。次の世代があるかどうかも、正直なところ不透明です。

    だからこそ、ZD8は「今できる最善をやった世代」として記憶される可能性が高い。初代が「こんなクルマが作れるんだ」という驚きだったとすれば、二代目は「こういうクルマをちゃんと作り続けられるんだ」という信頼です。

    スバルにとってBRZは異端児かもしれませんが、異端児が二代続いたら、それはもう系譜です

  • WRX STI(VAB)の中古車ガイド【最後のEJ20を手に入れるなら、覚悟と知識はセットで】

    WRX STI(VAB)の中古車ガイド【最後のEJ20を手に入れるなら、覚悟と知識はセットで】

    EJ20という名機の最終章を飾った4ドアスポーツセダン、WRX STI(VAB型)。

    2014年の登場から2019年末の受注終了まで、年次改良を重ねながら熟成されたこの車は、もう二度と新車では手に入りません。

    中古相場は高止まりし、限定車に至っては新車価格を大きく超えるプレミアがついています。

    ただ、相場が高いということは、買ったあとに「こんなはずじゃなかった」と思いたくない車でもあるということです。

    この記事では、VABを中古で狙うときに知っておくべき弱点と、逆に安心できるポイントを整理しましょう。

    まず注意すべきは「前オーナーの使い方」

    https://kuruma-dna.com/vab

    VABの中古車選びで最初に考えるべきことは、機械の弱点よりも前に「この個体がどう使われてきたか」です。WRX STIという車の性格上、サーキット走行やチューニングを経験した個体が少なくありません。それ自体は悪いことではありませんが、中古で買う側にとっては大きなリスク要因になります。

    たとえばマフラーやエアクリーナー、ECUチューンなどが施された車両は、車検対応の問題だけでなく、純正部品に戻そうとしたときにノーマルパーツが手に入らないケースがあります。WRX STIはスポーツカーの中でも人気が高く、中古の純正部品すら見つからないことが珍しくありません。

    改造車を避けたいなら、まずは外観とエンジンルームをじっくり確認することです。社外パーツの有無だけでなく、取り付け痕や配線の処理が雑でないかもチェックポイントになります。ノーマル戻しされていても、ボルトの傷やクリップの欠損から手が入った形跡がわかることもあります。

    VAB固有の弱点と、地味に嫌な不具合

    WRX STI(VAB)のインテリア
    画像:Tokumeigakarinoaoshima/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons

    まず知っておきたいのが、TGV(タンブルジェネレーターバルブ)の固着です。これは吸気側に付いているバルブで、内部が固着するとエンジンチェックランプが点灯し、SI-Driveの切り替えができなくなります。体感的にはエンジンが吹けなくなる場合と、ほぼ無症状の場合があり、症状が二極化するのが厄介なところです。

    走行不能にはなりにくいものの、警告灯が点いたままでは精神衛生上よくないですし、放置すれば車検にも影響します。修理自体はバルブ交換で済みますが、水平対向エンジンの奥まった位置にあるため工賃はそれなりにかかります。

    次に、パージバルブの不具合。高回転・高ブースト時に笛のような甲高い音が鳴る症状で、VABでは比較的よく報告されています。走行距離1万km台でも発生した例があり、対策品への交換で解消されます。

    ディーラーで無償対応されたケースもありますが、中古で購入した場合は保証の範囲次第です。音自体は走行性能に直結しないものの、高いお金を出して買った車から変な笛が鳴るのは、率直に言って萎えます。

    クラッチのレリーズベアリングからの異音も、距離を重ねたVABでは避けて通れない話題です。走行して暖まってくるとクラッチペダルを踏んだときにキュルキュル、ギシギシといった音が出始めます。グリス切れや劣化が原因で、根本的に直すにはミッションを降ろしてベアリングを交換する必要があります。

    この作業は工賃だけでもかなりの額になるため、もしバックランプスイッチのリコール(ミッション周辺の作業を伴う)がまだ未実施の個体であれば、同時に依頼することで工賃を節約できる可能性があります。純正クラッチの寿命自体は、街乗り中心なら10万km程度は持つとされていますが、ベアリングの異音はそれより早く出ることがあります。

    パワーステアリングまわりの異音も、VABオーナーの間ではよく話題になります。ハンドルを切った状態で段差を越えたときに「カタカタ」「コトコト」という音がステアリングから伝わってくる症状です。パワステフルードの流れに起因するもので、フルード交換で多少改善するケースもありますが、完全には消えないことが多いようです。

    走行性能への影響はほぼありませんが、400万円超の車で段差のたびにカタカタ鳴るのは、気になる人にはかなり気になります。試乗時にコンビニの出入り口や駐車場の段差を意識的に通過して確認するのがおすすめです。

    内装のきしみ音・ビビリ音も、VABでは宿命的に出やすい症状です。特にType Sのビルシュタイン足は硬めのセッティングなので、荒れた路面でセンターコンソールやナビ周辺からプラスチック同士がこすれるような音が出ます。カップホルダーのシャッター機構や、SIドライブスイッチ周辺が音源になっていることが多く、スポンジテープを貼るなどの対策で軽減はできますが、根本的には足回りの硬さに起因するため完全解消は難しいです。

    後期型(D型以降)特有の話として、ヘッドライトのベゼル部分のメタリック塗装が浮いてくる不具合があります。熱の影響と推測されていますが、D型オーナーの間ではかなり高い頻度で報告されており、ディーラーでサービス対応(対策品交換)の対象になっています。見た目に直結する部分なので、後期型を検討する場合は現車でヘッドライト周辺をよく確認してください。

    前期型(A〜C型)では、フロントバンパーのフェンダー側端部の塗装欠けが初期ロットで複数報告されています。対策品に交換しても再発するケースがあったとのことで、塗装の密着性に起因する問題だったようです。致命的ではありませんが、中古車の第一印象を左右する部分なので、バンパーの端を注意深く見ておく価値はあります。

    もうひとつ、後期型のECU制御に関する注意点があります。吸気温度が極端に高くなると、エンジン保護のために点火時期が大幅に遅角され、トルクが急激に落ちてエンストに至ることがあります。エアコン使用中に急勾配の坂を登るような高負荷時に起きやすく、リコール対象にもなっています。街乗り中心なら遭遇する確率は低いですが、夏場の山道やサーキット走行を考えている人は頭に入れておくべきポイントです。

    逆にここは強い——エンジンとミッションの信頼性

    https://kuruma-dna.com/gdb

    弱点ばかり並べましたが、VABの核心部分は驚くほど頑丈です。まずEJ20エンジン。1989年の初代レガシィから30年以上にわたって作り続けられたこのエンジンは、VABの時代には品質が非常に高いレベルに達していました。個体差のバラつきや熱ダレによる出力低下も、歴代モデルと比較して大幅に改善されています。

    ノーマルの状態で適切にオイル管理をしていれば、エンジン本体が壊れるリスクは低いと考えてよいでしょう。もちろん水平対向エンジンの構造上、オイル管理の重要性は直列エンジンより高いですが、それは「弱い」のではなく「手をかける必要がある」という話です。

    TY85型の6速マニュアルトランスミッションも、VABの安心材料のひとつです。競技ベースとして長年使われてきた実績があり、壊れにくさには定評があります。VABではシフトフィーリングも改善され、ニュートラルへの戻りに節度感が加わるなど、日常の操作感も上質になっています。

    ボディ剛性の高さも特筆すべき点です。先代(GVB型)と比較して、ねじり剛性は40%以上、曲げ剛性は30%以上向上しています。ただ硬いだけでなく、路面からの入力を車体全体でいなすような設計思想が取り入れられており、サスペンションが底突きしてもボディが衝撃を吸収する感覚があります。この剛性感は経年でも大きく劣化しにくく、高走行の個体でもしっかり感が残っているケースが多いです。

    リセールバリューの高さも、ある意味では「強い部位」と言えます。WRX STIは中古相場が高値安定しており、仮に数年乗って手放すことになっても、大きく値崩れする可能性は低いです。買うときは高いですが、売るときにも高い。この点は、維持費を含めたトータルコストを考える際に安心材料になります。

    現車確認で見るべきポイント

    https://kuruma-dna.com/grb

    まず最優先は、改造の有無と程度です。マフラー、エアクリーナー、ブーストコントローラー、車高調、ECUチューンなど、手が入りやすい箇所を一通り確認します。ノーマル戻しされている場合でも、ボルトやクリップの状態から判断できることがあります。

    エンジンをかけたら、アイドリング時の回転数の安定性を見てください。VABではアイドリングのハンチング(回転数が上下する)が仕様として出ることがありますが、極端に不安定な場合はTGVやセンサー系の不具合の可能性があります。SI-Driveの切り替えが正常に動作するかも確認しておきましょう。

    試乗では、クラッチペダルの感触に注意してください。冷間時は正常でも、10〜15分走って暖まってきたときに異音や引っかかりが出ないか。ペダルを踏み込んだときのザラつきや、キュルキュルという音がないかを意識して確認します。

    ハンドルを切りながら段差を越えるシチュエーションも意図的に作ってみてください。パワステ系の異音があるかどうかは、駐車場の出入りで判断できます。あわせて、走行中の内装からのきしみ音もチェック対象です。荒れた路面を少し走れば、センターコンソール周辺の音の出方がわかります。

    外装では、フロントバンパーの端部、ヘッドライトのベゼル周辺の塗装状態を重点的に見てください。後期型ならヘッドライトの塗装浮き、前期型ならバンパー端の塗装欠けが出やすいポイントです。ボンネットのエアインテーク周辺の隙間にも塗装剥がれが出ることがあるので、上からだけでなく横からも覗き込んでみてください。

    前期と後期、どちらを選ぶか

    WRX STI(VAB)のエンジンルーム
    画像:Tokumeigakarinoaoshima/CC0(Wikimedia Commons

    VABは、アプライドA〜C型を「前期」、D〜F型を「後期」と大きく二分して考えるのがシンプルです。歴代WRXのように年次改良で激変するタイプではなく、前期か後期かでほぼ仕様が決まります。

    後期型は、フロントブレーキがモノブロック対向6ポットに強化され、制動力とキャリパーの耐久性が大幅に向上しています。サスペンションもしなやか方向に修正され、DCCDは完全電子制御化。フロントビューモニターやステアリング連動ヘッドランプなど、装備面も充実しています。

    一方、前期型はDCCDに機械式LSDを残しており、駆動の拘束感がより強い「昔ながらのAWDスポーツ」の味が濃いです。足回りも後期より硬めで、好みが分かれるところです。価格差も無視できないので、走りの方向性と予算で選ぶのが現実的でしょう。

    ベースグレードとType Sの違いも重要です。ダンパーがカヤバかビルシュタインかで乗り味はかなり異なります。Type Sのビルシュタインは引き締まった硬めの味付けで、ベースグレードのカヤバは相対的にしなやかです。流通台数はType Sの方が多いですが、硬すぎると感じるならベースグレードも検討する価値があります。

    結局、VABは中古で買いなのか

    https://kuruma-dna.com/vbh

    結論から言えば、スバリストのあなたは絶対に買いです。スバリストでなくても買いです。

    EJ20エンジンと6速MTの組み合わせは、もう新車では手に入りません。2リッター水平対向ターボに6速マニュアル、センターデフ式AWD。この構成を持つ4ドアセダンは、世界的に見ても代替が効かない存在です。

    エンジンとミッションの基本的な信頼性は高く、ボディ剛性も十分。弱点として挙げた項目は、致命的なものというより「知っていれば対処できる」レベルのものがほとんどです。

    ただし、この車に手を出してよいのは、MT操作を楽しめる人であり、ハイオク指定で街乗り燃費7〜8km/Lという現実を受け入れられる人です。アイサイトもクルーズコントロールもありません。快適装備を求める人には向きません。

    逆に、「自分の手と足で車を操る感覚」に価値を感じる人にとって、VABは最高の選択肢のひとつです。相場は高いですが、リセールも高い。乗って楽しく、手放すときにも損しにくい。この構造は、中古車としてかなり健全です。

    改造歴のない、整備記録の残った個体を選べるかどうかが最大の分かれ目です。

    率直に言って、VABは「買って後悔しにくい中古スポーツカー」の筆頭格と言い切ってよいでしょう。

  • インプレッサ – GC8【WRCが育てた、スバルの戦闘機】

    インプレッサ – GC8【WRCが育てた、スバルの戦闘機】

    1990年代、日本車が世界のラリーシーンを席巻していた時代があります。

    三菱のランサーエボリューション、トヨタのセリカGT-FOUR。そしてその中心にいたのが、スバル・インプレッサWRX──型式で言えばGC8です。

    ただ、この車は最初から完成されたヒーローだったわけではありません。むしろ「勝つために変わり続けた」ことにこそ、GC8の本質があります。

    レガシィの限界から始まった

    インプレッサのエクステリア
    画像:Tokumeigakarinoaoshima/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons

    GC8の話をするには、まずレガシィの話をしないといけません。スバルが本格的にWRC(世界ラリー選手権)へ参戦したのは1990年、初代レガシィRS(BC5)でのことでした。

    水平対向ターボと4WDという組み合わせは戦闘力がありましたが、レガシィにはひとつ明確な弱点がありました。車体が大きすぎるのです。

    ラリーカーにとってボディサイズは死活問題です。

    狭い林道を全開で駆け抜ける競技では、ホイールベースが長いほど取り回しが悪くなる。レガシィのホイールベースは2,580mm。

    当時の競合と比べても明らかに不利でした。スバルはWRCで勝つために、もっとコンパクトな車体を必要としていたのです。

    そこで1992年に登場したのがインプレッサ、つまりGC型です。

    ホイールベースは2,520mmに短縮され、車両重量もレガシィより軽い。要するにインプレッサとは、スバルがラリーで勝つために「レガシィを小さくした」車だった、と言ってもいい。

    もちろん市販車としてのファミリーセダン需要も狙っていましたが、WRXグレードの存在意義は最初からモータースポーツ直結でした。

    水平対向ターボ+4WDという方程式

    https://kuruma-dna.com/vab

    GC8の心臓部は、スバル伝統のEJ20型水平対向4気筒ターボエンジンです。初期型のWRXで240ps、STiバージョンでは280ps。

    当時の自主規制上限である280馬力に、STiは早い段階で到達しています。

    水平対向エンジンの最大の利点は、重心の低さです。シリンダーが左右に寝ているぶん、エンジン全高が低くなる。これは直列4気筒を縦置きする他メーカーのレイアウトに対して、物理的に有利なポイントでした。

    ラリーのように路面がめまぐるしく変わる環境では、低重心がもたらす安定性は数字以上の意味を持ちます。

    駆動方式はフルタイム4WD。GC8のSTiグレードにはドライバーズコントロールセンターデフ(DCCD)が搭載され、前後のトルク配分をドライバーが手動で調整できました。

    これはラリーでのセッティング自由度を高めるための装備であり、市販車にこれを載せてくるあたりに、スバルの本気が見えます。

    WRCでの戦績が、市販車を変えた

    https://kuruma-dna.com/gdb

    GC8ベースのインプレッサ555がWRCに本格参戦したのは1993年。そしてわずか2年後の1995年、コリン・マクレーのドライブでスバルはマニュファクチャラーズタイトルを獲得します。マクレーはドライバーズタイトルも手にし、スバルは一躍ラリー界の主役に躍り出ました。

    1996年、1997年にもマニュファクチャラーズタイトルを連覇。この3連覇が、GC8の市販車としてのブランド価値を決定的にしました。「WRCで勝っている車が買える」というストーリーは、スバルのマーケティングにとって何よりも強力な武器だったのです。

    そして重要なのは、WRCでの知見が市販車にフィードバックされ続けたという事実です。GC8は1992年の登場から2000年の生産終了まで、実に細かくアップデートを重ねています。

    A型からG型まで、年次改良のたびにエンジン、サスペンション、ボディ補強、制御系が見直されました。型式は同じGC8でも、初期型と最終型ではほとんど別の車と言っていいほど中身が違います。

    年次改良という名の進化圧

    https://kuruma-dna.com/grb

    GC8の年次改良は、単なるマイナーチェンジとは質が違いました。たとえばC型(1994年)ではSTiバージョンIIが登場し、ブレーキやサスペンションが大幅に強化されています。D型(1996年)のSTiバージョンIIIではエンジンの吸排気系が見直され、レスポンスが向上しました。

    1997年のE型ではいわゆる「丸目前の最終形態」とも言える完成度に達し、STiバージョンIVはクロスミッションや等長エキマニこそまだでしたが、足回りのセッティングは一段と洗練されています。そして1998年のF型でフロントマスクが変更され、2ドアクーペにはいわゆる「22B」という伝説的な限定モデルも生まれました。

    22B-STiバージョンは、WRC参戦3連覇を記念した400台限定のモデルです。ワイドボディにEJ22型2.2リッターエンジンを搭載し、280psを発生。現在ではオークションで数千万円の値がつくこともある、GC8の到達点のひとつです。ただ、22Bだけが特別なのではなく、毎年の改良を積み重ねた「普通のSTi」にも同じ思想が流れていた、というのがGC8の本質的な凄みでしょう。

    ランエボという宿敵

    https://kuruma-dna.com/vbh

    GC8を語るうえで、三菱ランサーエボリューションの存在は避けて通れません。ランエボもまたWRC参戦を前提に開発されたセダンであり、直列4気筒ターボ+4WDという構成はインプレッサWRXと真っ向から競合していました。

    両者の違いは、エンジンレイアウトに集約されます。スバルは水平対向の縦置き、三菱は直列4気筒の横置き(のちに縦置きも採用)。水平対向の低重心か、直列4気筒の整備性とパワーの出しやすさか。この構造的な差異が、走りの味付けにも影響していました。GC8は安定志向、ランエボは旋回性重視──大雑把に言えばそういう傾向がありました。

    まあ、どちらが上かという議論は当時も今も尽きません。ただ確かなのは、この2台が互いを意識して進化し続けたことで、日本の4WDターボセダンというジャンルが世界的に見ても異常なレベルまで鍛え上げられた、ということです。

    弱点がなかったわけではない

    https://kuruma-dna.com/cp9a-1

    GC8は名車ですが、万能だったかと言えばそうでもありません。まず、内装の質感は正直なところ厳しい。同価格帯の他メーカー車と比べても、プラスチックの質や組み付けの精度は見劣りしました。スバルの開発リソースが走行性能に集中していたことの裏返しでもあります。

    また、水平対向エンジン特有のオイル漏れやヘッドガスケットの問題は、経年車では避けて通れない持病です。EJ20は頑丈なエンジンですが、メンテナンスを怠ると痛い目を見る。これは設計上の弱点というより、構造的な特性と付き合う覚悟が要る、という話です。

    ボディ剛性についても、年次改良で補強が入り続けたこと自体が、初期型の剛性が十分でなかったことを示唆しています。ただ、これは当時のコンパクトセダンとしては標準的な水準であり、GC8だけが特別に弱かったわけではありません。

    GC8が残したもの

    インプレッサ
    画像:Mr Bungle/Public domain(Wikimedia Commons

    2000年、インプレッサはGD型へとフルモデルチェンジします。丸目、涙目、鷹目と変遷するGD系もまたWRCで戦い続けましたが、GC8時代の「毎年確実に速くなる」という進化の密度は、やはり特別なものでした。

    GC8が確立したのは、「ラリーで勝てる4WDターボセダンを、一般ユーザーが買える価格で売る」というビジネスモデルです。STiバージョンでも新車価格は300万円台。WRCチャンピオンマシンのベース車両が、普通のサラリーマンの手に届く。この構図は、スバルというメーカーのブランドイメージを決定的に形作りました。

    現在、WRXの名前はスバルのラインナップに残っていますが、WRC参戦はすでに過去のものとなっています。それでもWRXという名前に「速さ」のイメージが宿り続けているのは、GC8時代に築かれた記憶があるからです。あの時代のスバルには、勝つための車を作り、勝った結果を車に返す、という循環がありました。GC8とは、そのサイクルがもっとも濃密に回っていた時代の結晶です。

  • WRX S4 – VBH【STIなき時代の、スバルが出した答え】

    WRX S4 – VBH【STIなき時代の、スバルが出した答え】

    WRX STIが生産終了したあと、スバルのスポーツセダンはどこへ向かうのか。

    その問いに対する現時点での回答が、2021年に登場した新型WRX S4、型式VBHです。

    先代のVAG型から数えて約7年ぶりのフルモデルチェンジ。

    ただし今回は、かつてのように「STIが本命、S4はその下」という構図ではありません。

    S4こそが、スバルのスポーツセダンそのものになった世代です。

    STIセダンが消えた時代に生まれた

    WRX S4のエクステリア
    画像:Tokumeigakarinoaoshima/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons

    VBH型WRX S4を語るうえで避けて通れないのが、EJ20ターボ搭載のWRX STI(VAB)が2019年末で生産終了したという事実です。

    長年スバルのフラッグシップスポーツを担ってきたSTIセダンは、排ガス規制と衝突安全基準の強化により、あの形のまま存続することが難しくなりました。

    つまりVBH型S4は、「STIの代わり」ではなく、「STIが存在しない前提で設計されたスポーツセダン」です。この違いは大きい。

    先代VA系ではSTIとS4が並立していたため、S4はどうしても「CVTのほう」「大人しいほう」という位置づけで見られがちでした。

    しかし今回は、S4がスバルのスポーツセダンの頂点をひとりで担う必要があったわけです。

    2.4Lターボという選択

    WRX S4のインテリア
    画像:Tokumeigakarinoaoshima/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons

    VBH型の心臓部は、FA24型2.4L水平対向4気筒直噴ターボ。最高出力275PS、最大トルク375Nm。

    先代S4のFA20型(300PS)と比べると出力はわずかに下がっていますが、排気量アップによってトルクは大幅に太くなっています。ピーク値だけでなく、低中回転域の扱いやすさが明確に変わりました。

    なぜFA24なのか。これはレヴォーグやアウトバックにも搭載されるユニットで、スバルが「次世代の主力パワートレイン」として開発したエンジンです。EJ20のような高回転型の官能性よりも、日常域からしっかりトルクが出て、燃費と排ガス性能を両立できることが重視されました。時代の要請に対して、スバルなりに最大限スポーティな落としどころを探った結果がこのエンジンです。

    トランスミッションはスバルパフォーマンストランスミッション(SPT)と呼ばれるCVT。マニュアルの設定はありません。ここに不満を感じる人がいるのは当然ですが、スバルとしてはアイサイトとの統合制御を前提にした設計であり、MTを残すという選択肢はかなり早い段階で消えていたようです。ただし8段のマニュアルモード付きで、レスポンスは先代より確実に改善されています。

    SGPフルインナーフレーム構造の意味

    https://kuruma-dna.com/vab

    プラットフォームはスバルグローバルプラットフォーム(SGP)のフルインナーフレーム構造。これはレヴォーグ(VN5)で初採用された手法で、ボディの接合工程を見直すことでねじり剛性を大幅に向上させたものです。

    具体的には、骨格をすべて組み上げてから外板パネルを被せるという工程に変更しています。従来はパネルを先に組み付けてから補強するため、構造体としての一体感に限界がありました。フルインナーフレーム化により、同じ車重でもボディ剛性が段違いに上がっています。

    これがなぜ重要かというと、サスペンションの仕事が正確になるからです。ボディがたわまなければ、ダンパーやスプリングが設計通りに動く。結果として、乗り心地とハンドリングの両立がしやすくなる。VBH型S4の走りの評価が高いのは、エンジンやAWDの話だけではなく、この器の進化が大きく効いています。

    アイサイトXとの統合

    https://kuruma-dna.com/gdb

    VBH型S4は、スバルのスポーツセダンとしては初めてアイサイトXを全車標準装備しました。高精度マップとGPS、準天頂衛星の情報を使った高度運転支援機能です。渋滞時のハンズオフ走行や、カーブ前の減速制御などが含まれます。

    スポーツモデルに先進安全装備をフル装備するというのは、一見すると矛盾しているように思えるかもしれません。しかしスバルの考え方は明確で、「速さと安全は対立しない」という立場を取っています。むしろ日常の移動でストレスを減らすことで、走りを楽しむ場面に集中できるようにするという発想です。

    実際、アイサイトXの制御はかなり自然で、スポーツ走行を邪魔するような介入はほとんどありません。高速巡航の快適性が上がった分、長距離を走ったあとの疲労感は先代とは比較にならないほど軽減されています。

    デザインの賛否と、その裏側

    https://kuruma-dna.com/grb

    VBH型で議論を呼んだのが、あの樹脂フェンダーを含む外装デザインです。フェンダーアーチ周辺にブラックの樹脂パーツが貼られたスタイリングは、発表直後からSNSを中心に賛否が割れました。

    ただ、これには理由があります。まず歩行者保護の衝突安全基準への対応。フェンダー部の変形ストロークを確保するために、金属ではなく樹脂を使う合理性がありました。加えて、北米市場で人気のクロスオーバー的なタフさを演出する意図もあったとされています。WRXは北米がメイン市場であり、日本専用のデザインにはできないという事情があるわけです。

    好き嫌いは分かれて当然ですが、「なぜこうなったか」を知ると、単なるデザインの好みの問題ではなく、規制と市場の力学が見えてきます。

    STIスポーツRという上位グレード

    https://kuruma-dna.com/gc8

    VBH型S4のラインナップで注目すべきは、最上位グレードのSTI Sport R EXです。STIがチューニングに関与した電子制御ダンパー(ZF製)を採用し、ドライブモードセレクトによってダンパー減衰力、パワステ特性、AWDトルク配分、CVT制御を統合的に切り替えられます。

    これは単にSTIのバッジを貼っただけではなく、足まわりのセッティングにSTIのノウハウが入っている点が重要です。コンフォートからスポーツ+まで、走りの幅がかなり広い。日常使いでは穏やかに、ワインディングでは引き締まった動きを見せるという二面性は、このグレードの存在意義そのものです。

    スバルのスポーツセダンが向かう先

    WRX S4
    画像:Tokumeigakarinoaoshima/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons

    VBH型WRX S4は、かつてのインプレッサWRXやSTIのような「尖った武闘派」ではありません。

    CVTしかない、樹脂フェンダーがある、STIセダンは出ない。そうした事実だけを並べると、スポーツカーとしての純度は下がったように見えるかもしれません。

    しかし視点を変えれば、2020年代に水平対向ターボ+フルタイムAWDの新型スポーツセダンを出せるメーカーが、世界にどれだけあるかという話です。

    電動化の波の中で、このパッケージを新規開発して市販したこと自体が、スバルの意地であり賭けでもあります。

    VBH型S4は、「STIの代替品」として見ると物足りなさが残るかもしれません。

    でも「スバルが2020年代にスポーツセダンを続けるために、何を残し何を変えたか」という視点で見ると、このクルマの設計思想はかなり明快です。

    速さだけでなく、毎日乗れるスポーツセダンとしての完成度を上げること。

    それがVBH型の存在意義であり、スバルが出した現時点での答えなのです。

  • インプレッサ WRX STI – GRB/GVB【最後の「インプレッサ」を名乗ったSTI】

    インプレッサ WRX STI – GRB/GVB【最後の「インプレッサ」を名乗ったSTI】

    「インプレッサ WRX STI」という名前でデビューした最後の世代。そう言うと少し感傷的に聞こえますが、GRB/GVBの話はもう少し複雑です。

    ハッチバックで始まり、途中からセダンが追加され、そして次の世代では「WRX」がインプレッサから独立していく。

    つまりこの世代は、スバルのスポーツモデル戦略が大きく転換する直前に立っていた車なんです。

    ハッチバックで始まった異例のSTI

    インプレッサ WRX STIのエクステリア
    画像:先従隗始/CC0(Wikimedia Commons

    2007年10月、3代目インプレッサ(GH系)をベースにしたWRX STIが登場しました。型式はGRB。

    ここで多くの人が驚いたのは、ボディがハッチバックだったことです。それまでのSTIといえばセダンが定番で、WRCの戦闘機というイメージと直結していました。

    5ドアハッチバックのSTIというのは、少なくとも日本市場では初めてのことです。

    背景にはいくつかの事情があります。まず、ベースとなる3代目インプレッサ自体がハッチバック中心のラインナップに移行していたこと。

    グローバル市場、とくに欧州ではハッチバックの需要が高く、スバルとしてもインプレッサの商品構成をそちらに寄せていた時期です。さらに、WRC参戦車両がハッチバックベースだったことも無関係ではありません。

    ただ、国内のSTIファンからは「セダンはどうした」という声が少なからず上がりました。この反応が、後のGVB追加に繋がっていくことになります。

    EJ20の最終進化形という意味

    https://kuruma-dna.com/vab

    GRBに搭載されたエンジンは、EJ20型 2.0L水平対向4気筒ターボ。最高出力308ps、最大トルク43.0kgf·mというスペックは、先代GDB後期のスペックCなどと数値上は大きく変わりません。

    しかし中身はかなり手が入っています。

    ツインスクロールターボの採用による低回転域からのレスポンス改善、等長エキゾーストマニホールドの継続採用、そしてSI-DRIVEによる3モードの出力特性切り替え。とくにSI-DRIVEは、インテリジェント/スポーツ/スポーツシャープの3段階で、同じエンジンをまったく違うキャラクターに変える仕組みです。これは単なる電子制御の追加ではなく、「STIを日常でも使いたい」というユーザー層の広がりに対する回答でした。

    EJ20というエンジン自体は1989年の初代レガシィから続く設計で、この時点ですでに約20年選手です。それでもスバルがこのエンジンを使い続けた理由は、水平対向の低重心という物理的メリットと、長年の熟成で得られた信頼性・チューニングの幅にありました。GRB/GVBは、その最終進化形に近い存在です。

    DCCDとシャシーの深化

    https://kuruma-dna.com/gdb

    駆動系の核心は、やはりDCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)です。GRBでは電子制御と機械式の複合制御がさらに進化し、前後トルク配分を状況に応じて最適化します。マニュアルモードでドライバーが自分で配分を調整できるのも、STIならではの特徴です。

    フロントにヘリカルLSD、リアに機械式LSD(トルセンもしくはオプションで機械式)を組み合わせた四輪駆動システムは、単に「4WDだから速い」という話ではありません。コーナリング中にどの輪にどうトルクを配るかを、ドライバーの意思と車両の状態の両方から制御する。この思想は、ラリーで培われたスバルの哲学そのものです。

    シャシー面では、3代目インプレッサで刷新されたプラットフォームの恩恵が大きい。ホイールベースは先代GDBから25mm延長され2,625mmに。ボディ剛性も大幅に向上しています。結果として、先代が持っていたやや神経質な挙動が抑えられ、高速域での安定感が明確に増しました。

    GVB──セダン復活の意味

    https://kuruma-dna.com/vbh

    2010年7月、待望のセダンボディが追加されました。型式はGVB。正確には「WRX STI A-Line」のセダン版が先行し、その後6速MT仕様のSTIセダンが追加されるという段階的な展開でした。

    このGVBの追加は、単にファンの声に応えただけではありません。北米市場ではセダンの需要が根強く、STIの販売ボリュームを考えると4ドアセダンの不在は商品戦略上の穴でした。また、ハッチバックのGRBはリアの剛性や重量配分の面でセダンとは異なる特性を持っており、「よりシャープなハンドリングを求めるならセダン」という棲み分けも成立しました。

    実際、GVBはGRBに対してリアまわりの剛性が高く、旋回時のリアの追従性に優れるという評価が多く聞かれます。ホイールベースやトレッドは同一ですが、ボディ形状の違いが走りの味に影響するのは、こうしたハイパフォーマンスカーでは珍しくありません。

    spec CとtS──STIがさらに磨いた特別仕様

    https://kuruma-dna.com/gc8

    GRB/GVB世代でも、STI(スバルテクニカインターナショナル)によるコンプリートカーが複数設定されました。なかでも注目すべきはspec CtSです。

    spec Cは軽量化と冷却性能の強化を軸にしたグレードで、エアコンレス仕様も選択可能。ボールベアリングターボの採用でレスポンスをさらに鋭くし、サーキット志向のユーザーに向けた仕様です。一方のtSは、ビルシュタイン製ダンパーや専用チューニングの足まわりを持ち、STIが考える「公道での最適解」を形にしたモデルでした。

    こうした特別仕様の存在は、GRB/GVBが単なる量産スポーツカーではなく、STIというブランドの実験場でもあったことを示しています。ニュルブルクリンク24時間レースへの参戦車両もこの世代がベースであり、モータースポーツとの接点は途切れていませんでした。

    最後の「インプレッサSTI」が残したもの

    インプレッサ WRX STI
    画像:Tokumeigakarinoaoshima/CC0(Wikimedia Commons

    GRB/GVBの後、スバルは2014年に「WRX STI」をインプレッサから独立させます。型式でいえばVAB。つまりGRB/GVBは、「インプレッサ WRX STI」というひとつの系譜の最終章にあたるわけです。

    振り返ると、この世代が担った役割は意外と重い。

    ハッチバックという新しい器を試し、セダンの価値を再確認し、SI-DRIVEで日常性を広げ、DCCDの電子制御を深化させた。EJ20の熟成もここでほぼ頂点に達しています。

    派手なスペック向上こそありませんでしたが、「STIとは何か」を多角的に問い直した世代だったと言えます。

    GDB時代の荒々しさを愛するファンからすると、GRB/GVBは少し大人しくなったように映るかもしれません。

    でもそれは、スバルがSTIを「一部のマニアのための車」から「もう少し広い層に届くスポーツカー」へと再定義しようとした結果です。

    その試みが正しかったかどうかは評価が分かれますが、少なくともこの判断がなければ、WRXの独立という次のステップには進めなかったはずです。

    最後のインプレッサSTI。その肩書きは、終わりであると同時に、次の始まりへの橋渡しでもありました。