EJ20という名機の最終章を飾った4ドアスポーツセダン、WRX STI(VAB型)。
2014年の登場から2019年末の受注終了まで、年次改良を重ねながら熟成されたこの車は、もう二度と新車では手に入りません。
中古相場は高止まりし、限定車に至っては新車価格を大きく超えるプレミアがついています。
ただ、相場が高いということは、買ったあとに「こんなはずじゃなかった」と思いたくない車でもあるということです。
この記事では、VABを中古で狙うときに知っておくべき弱点と、逆に安心できるポイントを整理しましょう。
まず注意すべきは「前オーナーの使い方」
VABの中古車選びで最初に考えるべきことは、機械の弱点よりも前に「この個体がどう使われてきたか」です。WRX STIという車の性格上、サーキット走行やチューニングを経験した個体が少なくありません。それ自体は悪いことではありませんが、中古で買う側にとっては大きなリスク要因になります。
たとえばマフラーやエアクリーナー、ECUチューンなどが施された車両は、車検対応の問題だけでなく、純正部品に戻そうとしたときにノーマルパーツが手に入らないケースがあります。WRX STIはスポーツカーの中でも人気が高く、中古の純正部品すら見つからないことが珍しくありません。
改造車を避けたいなら、まずは外観とエンジンルームをじっくり確認することです。社外パーツの有無だけでなく、取り付け痕や配線の処理が雑でないかもチェックポイントになります。ノーマル戻しされていても、ボルトの傷やクリップの欠損から手が入った形跡がわかることもあります。
VAB固有の弱点と、地味に嫌な不具合
まず知っておきたいのが、TGV(タンブルジェネレーターバルブ)の固着です。これは吸気側に付いているバルブで、内部が固着するとエンジンチェックランプが点灯し、SI-Driveの切り替えができなくなります。体感的にはエンジンが吹けなくなる場合と、ほぼ無症状の場合があり、症状が二極化するのが厄介なところです。
走行不能にはなりにくいものの、警告灯が点いたままでは精神衛生上よくないですし、放置すれば車検にも影響します。修理自体はバルブ交換で済みますが、水平対向エンジンの奥まった位置にあるため工賃はそれなりにかかります。
次に、パージバルブの不具合。高回転・高ブースト時に笛のような甲高い音が鳴る症状で、VABでは比較的よく報告されています。走行距離1万km台でも発生した例があり、対策品への交換で解消されます。
ディーラーで無償対応されたケースもありますが、中古で購入した場合は保証の範囲次第です。音自体は走行性能に直結しないものの、高いお金を出して買った車から変な笛が鳴るのは、率直に言って萎えます。
クラッチのレリーズベアリングからの異音も、距離を重ねたVABでは避けて通れない話題です。走行して暖まってくるとクラッチペダルを踏んだときにキュルキュル、ギシギシといった音が出始めます。グリス切れや劣化が原因で、根本的に直すにはミッションを降ろしてベアリングを交換する必要があります。
この作業は工賃だけでもかなりの額になるため、もしバックランプスイッチのリコール(ミッション周辺の作業を伴う)がまだ未実施の個体であれば、同時に依頼することで工賃を節約できる可能性があります。純正クラッチの寿命自体は、街乗り中心なら10万km程度は持つとされていますが、ベアリングの異音はそれより早く出ることがあります。
パワーステアリングまわりの異音も、VABオーナーの間ではよく話題になります。ハンドルを切った状態で段差を越えたときに「カタカタ」「コトコト」という音がステアリングから伝わってくる症状です。パワステフルードの流れに起因するもので、フルード交換で多少改善するケースもありますが、完全には消えないことが多いようです。
走行性能への影響はほぼありませんが、400万円超の車で段差のたびにカタカタ鳴るのは、気になる人にはかなり気になります。試乗時にコンビニの出入り口や駐車場の段差を意識的に通過して確認するのがおすすめです。
内装のきしみ音・ビビリ音も、VABでは宿命的に出やすい症状です。特にType Sのビルシュタイン足は硬めのセッティングなので、荒れた路面でセンターコンソールやナビ周辺からプラスチック同士がこすれるような音が出ます。カップホルダーのシャッター機構や、SIドライブスイッチ周辺が音源になっていることが多く、スポンジテープを貼るなどの対策で軽減はできますが、根本的には足回りの硬さに起因するため完全解消は難しいです。
後期型(D型以降)特有の話として、ヘッドライトのベゼル部分のメタリック塗装が浮いてくる不具合があります。熱の影響と推測されていますが、D型オーナーの間ではかなり高い頻度で報告されており、ディーラーでサービス対応(対策品交換)の対象になっています。見た目に直結する部分なので、後期型を検討する場合は現車でヘッドライト周辺をよく確認してください。
前期型(A〜C型)では、フロントバンパーのフェンダー側端部の塗装欠けが初期ロットで複数報告されています。対策品に交換しても再発するケースがあったとのことで、塗装の密着性に起因する問題だったようです。致命的ではありませんが、中古車の第一印象を左右する部分なので、バンパーの端を注意深く見ておく価値はあります。
もうひとつ、後期型のECU制御に関する注意点があります。吸気温度が極端に高くなると、エンジン保護のために点火時期が大幅に遅角され、トルクが急激に落ちてエンストに至ることがあります。エアコン使用中に急勾配の坂を登るような高負荷時に起きやすく、リコール対象にもなっています。街乗り中心なら遭遇する確率は低いですが、夏場の山道やサーキット走行を考えている人は頭に入れておくべきポイントです。
逆にここは強い——エンジンとミッションの信頼性
弱点ばかり並べましたが、VABの核心部分は驚くほど頑丈です。まずEJ20エンジン。1989年の初代レガシィから30年以上にわたって作り続けられたこのエンジンは、VABの時代には品質が非常に高いレベルに達していました。個体差のバラつきや熱ダレによる出力低下も、歴代モデルと比較して大幅に改善されています。
ノーマルの状態で適切にオイル管理をしていれば、エンジン本体が壊れるリスクは低いと考えてよいでしょう。もちろん水平対向エンジンの構造上、オイル管理の重要性は直列エンジンより高いですが、それは「弱い」のではなく「手をかける必要がある」という話です。
TY85型の6速マニュアルトランスミッションも、VABの安心材料のひとつです。競技ベースとして長年使われてきた実績があり、壊れにくさには定評があります。VABではシフトフィーリングも改善され、ニュートラルへの戻りに節度感が加わるなど、日常の操作感も上質になっています。
ボディ剛性の高さも特筆すべき点です。先代(GVB型)と比較して、ねじり剛性は40%以上、曲げ剛性は30%以上向上しています。ただ硬いだけでなく、路面からの入力を車体全体でいなすような設計思想が取り入れられており、サスペンションが底突きしてもボディが衝撃を吸収する感覚があります。この剛性感は経年でも大きく劣化しにくく、高走行の個体でもしっかり感が残っているケースが多いです。
リセールバリューの高さも、ある意味では「強い部位」と言えます。WRX STIは中古相場が高値安定しており、仮に数年乗って手放すことになっても、大きく値崩れする可能性は低いです。買うときは高いですが、売るときにも高い。この点は、維持費を含めたトータルコストを考える際に安心材料になります。
現車確認で見るべきポイント
まず最優先は、改造の有無と程度です。マフラー、エアクリーナー、ブーストコントローラー、車高調、ECUチューンなど、手が入りやすい箇所を一通り確認します。ノーマル戻しされている場合でも、ボルトやクリップの状態から判断できることがあります。
エンジンをかけたら、アイドリング時の回転数の安定性を見てください。VABではアイドリングのハンチング(回転数が上下する)が仕様として出ることがありますが、極端に不安定な場合はTGVやセンサー系の不具合の可能性があります。SI-Driveの切り替えが正常に動作するかも確認しておきましょう。
試乗では、クラッチペダルの感触に注意してください。冷間時は正常でも、10〜15分走って暖まってきたときに異音や引っかかりが出ないか。ペダルを踏み込んだときのザラつきや、キュルキュルという音がないかを意識して確認します。
ハンドルを切りながら段差を越えるシチュエーションも意図的に作ってみてください。パワステ系の異音があるかどうかは、駐車場の出入りで判断できます。あわせて、走行中の内装からのきしみ音もチェック対象です。荒れた路面を少し走れば、センターコンソール周辺の音の出方がわかります。
外装では、フロントバンパーの端部、ヘッドライトのベゼル周辺の塗装状態を重点的に見てください。後期型ならヘッドライトの塗装浮き、前期型ならバンパー端の塗装欠けが出やすいポイントです。ボンネットのエアインテーク周辺の隙間にも塗装剥がれが出ることがあるので、上からだけでなく横からも覗き込んでみてください。
前期と後期、どちらを選ぶか
VABは、アプライドA〜C型を「前期」、D〜F型を「後期」と大きく二分して考えるのがシンプルです。歴代WRXのように年次改良で激変するタイプではなく、前期か後期かでほぼ仕様が決まります。
後期型は、フロントブレーキがモノブロック対向6ポットに強化され、制動力とキャリパーの耐久性が大幅に向上しています。サスペンションもしなやか方向に修正され、DCCDは完全電子制御化。フロントビューモニターやステアリング連動ヘッドランプなど、装備面も充実しています。
一方、前期型はDCCDに機械式LSDを残しており、駆動の拘束感がより強い「昔ながらのAWDスポーツ」の味が濃いです。足回りも後期より硬めで、好みが分かれるところです。価格差も無視できないので、走りの方向性と予算で選ぶのが現実的でしょう。
ベースグレードとType Sの違いも重要です。ダンパーがカヤバかビルシュタインかで乗り味はかなり異なります。Type Sのビルシュタインは引き締まった硬めの味付けで、ベースグレードのカヤバは相対的にしなやかです。流通台数はType Sの方が多いですが、硬すぎると感じるならベースグレードも検討する価値があります。
結局、VABは中古で買いなのか
結論から言えば、スバリストのあなたは絶対に買いです。スバリストでなくても買いです。
EJ20エンジンと6速MTの組み合わせは、もう新車では手に入りません。2リッター水平対向ターボに6速マニュアル、センターデフ式AWD。この構成を持つ4ドアセダンは、世界的に見ても代替が効かない存在です。
エンジンとミッションの基本的な信頼性は高く、ボディ剛性も十分。弱点として挙げた項目は、致命的なものというより「知っていれば対処できる」レベルのものがほとんどです。
ただし、この車に手を出してよいのは、MT操作を楽しめる人であり、ハイオク指定で街乗り燃費7〜8km/Lという現実を受け入れられる人です。アイサイトもクルーズコントロールもありません。快適装備を求める人には向きません。
逆に、「自分の手と足で車を操る感覚」に価値を感じる人にとって、VABは最高の選択肢のひとつです。相場は高いですが、リセールも高い。乗って楽しく、手放すときにも損しにくい。この構造は、中古車としてかなり健全です。
改造歴のない、整備記録の残った個体を選べるかどうかが最大の分かれ目です。
率直に言って、VABは「買って後悔しにくい中古スポーツカー」の筆頭格と言い切ってよいでしょう。
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