NCロードスターについては見た目からもわかる通り、NA→NBのような正常進化ではありません。
これはNAとNBで守ってきた「軽量FRオープンの楽しさ」を、2000年代の安全性や快適性や商品性に合わせてもう一度成立させ直した世代でした。
マツダは2005年の発表時、この三代目を「世界で最も売れているライトウェイトスポーツカーの、最新かつ最も進化した世代」と位置づけ、開発責任者の貴島孝雄氏も「軽快感、バランスの取れたハンドリング、全体の敏捷さといったロードスターの核を残しながら、もっと幅広いユーザーにとって使いやすく、快適で、質の高いクルマにした」と説明しています。
三代目の役目は、原点の更新だった
NCの難しさははっきりしていました。
初代NAは「失われたライトウェイトスポーツの復活」という強烈な物語を持ち、NBはその思想を商品として磨き上げた。
では三代目は何をするのか。
そこでNCが担ったのは、ロードスターの本質である「人馬一体」を今の時代の基準で成立させることでした。
マツダ自身も、NCの開発ではスポーツ走行だけでなく日常でも楽しめることを重視し、人馬一体こそがこの進化したロードスターの性格を最もよく表す言葉だとしています。
大きくなったのは、軟派になったからじゃない
NCでよく言われるのが「少し大きくなった」「少し重くなった」という話です。
でも、ここを表面だけで切るのは非常にもったいない。
2000年代のクルマとして安全性や快適性や剛性の要求が上がる中で、NCはそこに対応しながらロードスターらしさを消さないことを狙っていました。
実際マツダは、各種新装備や技術を盛り込みながら、車重増を先代比で約10kgに抑えたと説明しており、さらにボディは曲げ剛性22%、ねじり剛性47%向上、エンジンも135mm後退させて前後重量配分とヨー慣性モーメントの最適化を図っています。
つまりNCは、雑に肥大化したのではなく、増える条件の中でどうロードスターを守るかを本気でやった世代です。
だからこそ、走りの基礎体力がかなり高い
この世代の強みは、まず土台が強いことです。
剛性が上がり、重量配分の考え方もより徹底され、日常域でもスポーツ走行でも気持ちよく扱える方向に仕上げられている。
派手なスペック競争ではなく、ステアを切った時の反応、姿勢変化のわかりやすさ、限界の掴みやすさといった「スポーツカーの会話能力」を底上げしているのがNCです。
開発時の説明でも、よりパワフルなエンジンと軽量・コンパクトなボディの動的バランスを狙ったとされており、三代目らしくクルマ全体の完成度で勝負していたことが見えてきます。
インタビューから見えてくるのは、「広げる」覚悟だった
NCで面白いのは、ロードスターを狭い趣味車のままにしなかったことです。
貴島孝雄氏は発表時のコメントで「核となる資質は守りつつ、より多くの顧客にとって価値のあるものにした」と語っています。これは言い換えれば、従来ファンだけの聖域に閉じこもらず、もう少し間口を広げようとしたということです。
実際、後に三代目開発の副プログラムマネージャーを務めた山本修弘氏も、ロードスターの魅力は「人を幸せにすること」であり、多様な楽しみ方と人とのつながりを生むところにあると語っています。NCは、その広がる魅力をちゃんと商品として実装し始めた世代でもありました。
NC1は、三代目の再定義そのものだった
2005年に登場したNC1は、まずここまでで一度ロードスターを作り直したことに意味があります。
モダンになったスタイリング、質感の上がったインテリア、強化されたボディ、そして2.0Lモデルでは6MTやビルシュタインを備えるRS系まで用意され、従来の「軽いだけのオープン」では終わらない商品力を持っていました。
2005-2006日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したのも、単に人気車だったからではなく、最新の環境・安全要件を満たしながらライトウェイトオープンスポーツとしての魅力を高い水準で成立させたことが評価されたからだと見ていいです。
NC最大級の発明「RHT」について
NCを語るなら、リトラクタブルハードトップは絶対に外せません。
2006年に追加されたこの仕様は、トランク容量を犠牲にしない世界初の軽量オープンスポーツ用電動格納ルーフとして登場しました。
しかもルーフはシート後方・ホイールベース内に収まり、50:50の重量配分や低いヨー慣性モーメントを維持するよう設計されている。
要するにこれは「便利な屋根」ではなく、ロードスターの運動性能を崩さずに快適性と所有満足を上げるための装備だったわけです。
貴島氏自身も、このRHTを「人馬一体の喜びをより多くの人に感じてもらうための一台」として語っています。
RHTがすごかったのは、性格を増やしたこと
従来のロードスターは、どうしても幌の気軽さと引き換えに、人によっては日常の快適性や安心感で一歩引く部分があった。
でもNCのRHTはそこを崩した。クローズド時の安心感や静粛性を高めつつ、オープン時にはちゃんとロードスターでいられる。
しかもトランクを削らず、開閉も12秒という速さで終わる。ロードスターの世界観を変えずに、ユーザー層だけを広げたこの一手はかなり強いです。
NCが万人向けになってしまったのではなく、万人が入りやすい入口を作ったと見るべき世代なのは、こういうところに出ています。
NR-A、やっぱりロードスターは走りのクルマだった
一方でNCは間口を広げただけの世代でもありません。
2006年にはNR-Aも設定され、車高調整機構付ビルシュタイン、スーパーLSD、フロントタワーバーなどを備えたワンメイクレース向けベース車として用意されました。
つまりマツダ自身が、NCを快適になったロードスターで終わらせず、ちゃんとモータースポーツ側にもつながる素性を持ったクルマとして扱っていたわけです。
ロードスターが文化として続いた理由の一つは、こうして裾野を広げながら、芯の部分では走りを薄めなかったことにあります。
NC2/NC3は、三代目をさらに磨き込んだ後半戦
2008年の改良ではFleshed Roadsterとしてリフレッシュされ、20周年を迎えた2009年には記念車も用意されました。
20th AnniversaryはRSソフトトップとVS RHTをベースにRECAROシートや専用バッジなどを備えた仕様で、NCがすでに現行商品であると同時に20年続く文化の担い手になっていたことを示しています。
ここまで来るとNCはもう、単なる現代化の役目だけではない。NAから続くロードスターという物語を、量産スポーツとして持続させる中核世代になっていたのです。
高水準な「使えるのにちゃんと楽しい」
NCの本当の強みはここです。
NAのような原初の軽さとも、NBのような端正な熟成とも少し違う。
NCは、剛性、快適性、質感、使い勝手、安全性をしっかり引き上げながら、それでもロードスターに必要な気持ちいい回頭性やオープンで走る意味を残した。
しかもRHTやNR-Aのように、快適性にも走りにもそれぞれ深く踏み込んでいる。
だからNCは、ライトウェイトスポーツの理想を守ったというより、理想を生活に持ち込みやすくした世代と言った方が近いです。
ロードスターにおけるNCの立ち位置
ロードスターの系譜でNCは、NAほど神話的ではないし、NBほど通好みでもない。
でもこの世代がなければ、ロードスターはただの懐古的な軽量オープンで終わっていたかもしれない。現代基準の中で、快適性も商品性も上げ、それでも人馬一体を守る。さらにRHTという新しい答えまで出した。
NCは、ロードスターを昔ながらの名車から今も成立するスポーツカーへ押し上げた三代目です。2005年の日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞も、その仕事の大きさを物語っています。
まとめ
NCロードスターを一言でいえば、
「原点を守るために、あえて現代化を引き受けた三代目」です。
NAやNBほど軽さの神話で語られないぶん、評価が割れやすい世代ではある。
でもロードスターという名前を21世紀でもちゃんと通用させた、大事な一台なのです。

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