ランクス/アレックス – ZZT231【カローラの顔してまさかの8500rpm】

カローラといえば、日本で最も「普通」を体現してきたクルマです。

堅実で、壊れなくて、どこにでもいる。

それはもちろん強みなのですが、2000年前後のトヨタにとっては、少し違う意味を帯びはじめていました。つまり、「カローラ=おじさんのクルマ」という空気です。

ランクスとアレックスは、そんなイメージをどうにかしたかったトヨタが送り出した、本気のハッチバックでした。

カローラの若返りという命題

2001年、9代目カローラシリーズ(E120系)の登場に合わせて、カローラ ランクスとアレックスはデビューしました。

ランクスはトヨタ店・トヨペット店、アレックスはネッツ店・ビスタ店という販売チャネルの違いで名前が分かれていますが、中身はほぼ同じクルマです。当時のトヨタはまだ多チャネル戦略を採っていたので、こうした「兄弟車」がごく普通に存在していました。

ただ、この2台が単なるチャネル違いの産物だったかというと、そうではありません。そもそもの企画意図が、カローラの顧客年齢層を下げることにありました。

セダンのカローラは当時すでにユーザーの平均年齢が高く、若い世代にとっては選択肢にすら入らない存在になりつつあった。そこで、ハッチバックという形式を使って、走りの質感とデザインの鮮度で別の層にリーチしようとしたわけです。

欧州カローラとの血縁

ランクス/アレックスを語るうえで外せないのが、欧州仕様のカローラとの関係です。

E120系カローラは、欧州市場では3ドア・5ドアハッチバックが主力でした。そしてその欧州向けハッチバックの開発には、トヨタのヨーロッパ拠点であるTMEJ(Toyota Motor Europe Marketing & Engineering)が深く関わっています。

つまりランクス/アレックスは、日本市場向けにローカライズされてはいるものの、骨格の設計思想そのものが欧州基準だったということです。

プラットフォームはMCプラットフォームと呼ばれるもので、先代のE110系から大幅に刷新されています。ボディ剛性が格段に上がり、サスペンションのジオメトリーも見直された。高速域での安定性や、ワインディングでのしっかり感は、従来のカローラとは明確に別物でした。

この世代のカローラは、欧州カー・オブ・ザ・イヤーにはノミネートこそされなかったものの、欧州市場で堅調な販売を記録しています。その走りの基盤を、日本のハッチバックにもそのまま持ち込んだのがランクス/アレックスだった。ここが、単なる「カローラのハッチバック版」とは違うポイントです。

2ZZ-GEという飛び道具

ランクス/アレックスのラインナップで最も語られるのは、やはりZエアロツアラーに搭載された2ZZ-GE型エンジンでしょう。1.8リッター直4で190馬力。ヤマハ発動機と共同開発された可変バルブタイミング&リフト機構「VVTL-i」を備え、高回転域でカムプロフィールが切り替わるという、かなり攻めた仕様です。

この2ZZ-GEは、同時期のセリカGT(ZZT231)やロータス・エリーゼにも搭載されていたユニットです。カローラの名を冠したクルマに、ロータスと同じエンジンが載っている。冷静に考えると、なかなか異常な話です。

高回転型エンジンの常として、低回転域のトルクはそこまで太くありません。街乗りではやや大人しい印象すらある。ただ、6,000回転あたりでリフト量が切り替わった瞬間の加速感は、カローラという名前からは想像できないものでした。

6速MTとの組み合わせで、回して楽しむという体験を明確に提供していた。この点で、Zエアロツアラーは「隠れたホットハッチ」として今でも一定の支持を集めています。

もちろん、全グレードがこうした尖った仕様だったわけではありません。ベースグレードには1.5リッターの1NZ-FE型が載り、こちらは実用本位のおとなしいエンジンです。1.8リッターの1ZZ-FE型を積む中間グレードもあり、ラインナップとしてはきちんと幅を持たせていました。

ただ、このクルマの存在意義を最も鮮明に語るのは、やはり2ZZ-GEの方です。

デザインの狙いと限界

エクステリアデザインは、当時のカローラセダンと比べるとかなりシャープでした。ヘッドライトの造形やリアの処理など、ヨーロッパのCセグメントハッチバックを明確に意識した雰囲気があります。

特にアレックスの方は、フロントグリルの意匠がランクスとやや異なり、もう少しスポーティな印象を出そうとしていました。

ただ、正直なところ、デザインで強烈な個性を打ち出せたかというと、少し物足りなさは残ります。

同時期のホンダ・シビック(EU系)やマツダ・ファミリアSスポーツなどと並べると、トヨタらしい手堅さが勝ってしまい、「わざわざこれを選ぶ理由」をデザインだけで訴求するのは難しかった。ここに、カローラという名前の重力を感じます。

どれだけ走りを磨いても、見た目がカローラの枠内に収まっている限り、若い層の心をつかむにはもう一歩足りなかったのかもしれません。

売れたのか、届いたのか

販売面では、ランクス/アレックスはそれなりに健闘しています。ただし、カローラセダンやフィールダーほどの数は出ていません。これは当然といえば当然で、日本市場においてハッチバックはセダンやワゴンほどの汎用性を求められにくかった時代です。

それでも、Zエアロツアラーを中心に、走りを重視するユーザーには確実に届いていました。モータースポーツの現場でも、ナンバー付きのワンメイクレースやジムカーナで使われるケースがあり、「安くて速い実用ハッチ」という立ち位置を静かに確立していたのです。

ひとつ補足すると、この世代で「ランクス」「アレックス」という名前は一代限りで終わっています。後継はカローラ ルミオン(2007年)に引き継がれたとも言えますが、ルミオンはトールワゴン的な方向に振ったクルマで、性格はかなり異なります。ランクス/アレックスが持っていた「欧州ハッチバック的な走りの質」を直接受け継いだ国内モデルは、実質的には存在しません。

その意味では、カローラスポーツ(2018年〜)の登場まで、トヨタは国内で「カローラの名を冠したスポーティなハッチバック」を持たない時期が長く続いたことになります。

ランクス/アレックスは、いわばその空白の前に一度だけ咲いた花のような存在なのです。わかるでしょう?

カローラが「普通」を疑った記録

カローラ ランクス/アレックスは、トヨタが「カローラはこのままでいいのか」と自問した結果生まれたクルマです。欧州の走りの基準を持ち込み、ヤマハと組んだ高回転エンジンまで載せた。

その本気度は、スペックを見れば明らかです。

ただ、カローラという名前の引力はあまりにも強かった。どれだけ中身を変えても、「カローラでしょ」という一言で片付けられてしまう宿命がある。ランクス/アレックスは、その壁に正面からぶつかった最初のモデルだったとも言えます。

だからこそ、このクルマは面白い。完璧に成功したわけではないけれど、カローラが「普通」であることを一度疑い、別の可能性を試みた記録として、ちゃんと意味がある。

お買い物車のようなガワから2ZZ-GEの咆哮が上がるあの瞬間に、トヨタの意地のようなものが詰まっているのです。

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