BRZ – ZD8【AWDの会社が育てた、FRスポーツのもう一つの正解】

二代目BRZは、初代と同じくトヨタとの共同開発車です。でも、初代と同じ意味で「兄弟車」と呼んでいいかというと、ちょっと違います。ZD8型のBRZには、スバルが「次はもっと自分たちの色を出す」と決めた痕跡がはっきり残っています。

初代が残した宿題

2012年に登場した初代BRZ(ZC6)は、スバルにとって異例の一台でした。水平対向エンジンは自社製ですが、駆動方式はFR。スバルのアイデンティティであるAWDを捨てたクルマを、自分たちのブランドで売る。これは社内でも相当な議論があったと言われています。

結果として初代は一定の成功を収めました。ただ、評価の中には「トヨタ86との違いがわかりにくい」という声が常につきまといました。味付けの差はあるものの、外から見れば同じクルマのバッジ違い。スバルとしては、もう少し独自の立ち位置がほしかったはずです。

もうひとつの宿題は、パワーです。初代のFA20型エンジンは自然吸気で200馬力。軽さと回る楽しさを重視した設計でしたが、「もう少しトルクがほしい」という声は発売直後から根強くありました。とくに中間加速の薄さは、サーキットでもストリートでも指摘され続けた弱点です。

FA24型への換装が意味すること

2021年に発表されたZD8型の最大の変更点は、エンジンです。排気量が2.0Lから2.4Lへ拡大され、FA24型に換装されました。最高出力は235馬力、最大トルクは250Nm。数字だけ見れば劇的な変化ではありませんが、トルクの出方がまるで違います

FA24型はもともとスバルの北米向けモデルに搭載されていたユニットをベースにしています。つまり、まったくの新設計ではなく、既存の資産を活用した現実的な選択です。ただし、BRZ用にはかなり手が入っています。直噴化の最適化、吸排気系の専用チューニング、レスポンス重視のセッティング。排気量アップによるトルク増を、単に「速くなった」ではなく「扱いやすくなった」方向に振っているのがポイントです。

初代で不満の多かった2000〜4000回転あたりの谷間が埋まったことで、日常域での運転が格段に楽になりました。これはスポーツカーとしての性能向上であると同時に、「毎日乗れるスポーツカー」という商品企画上の要請に応えた結果でもあります。

プラットフォームは刷新、でもFRは変えない

ZD8はスバルのSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)をベースにしています。ただし、インプレッサやレヴォーグに使われるSGPそのままではありません。FRレイアウトに合わせて大幅に改修された専用仕様です。

フロントのボディ横曲げ剛性は初代比で約60%向上、ねじり剛性も約50%向上したとスバルは発表しています。数字だけ聞いてもピンとこないかもしれませんが、要するに「ボディがしっかりしたぶん、サスペンションがちゃんと仕事できるようになった」ということです。

初代BRZは軽さが武器でしたが、剛性面ではやや物足りないという評価もありました。ZD8は車重が約20kg増えていますが、それ以上にボディ剛性の向上幅が大きい。結果として、ステアリングの正確さやコーナリング時の安定感は明確に進化しています。

重心高は初代と同じく極めて低い水準を維持しています。水平対向エンジンをFRレイアウトで低く搭載するという基本構成は変わっていません。ここは「変えなかった」のではなく、「変える必要がなかった」と見るべきでしょう。初代で確立した物理的な強みは、そのまま二代目の土台になっています。

GR86との距離感

二代目でも兄弟車であるトヨタGR86は存在します。エンジンもプラットフォームも共有している以上、「中身は同じでしょ?」と思われがちです。実際、ハードウェアの共通度は高い。でも、ZD8ではスバル側の味付けがより明確になりました。

わかりやすいのはサスペンションのセッティングです。BRZはGR86に比べて、リアの動きをやや穏やかに抑える方向で仕上げられています。GR86が「積極的にリアを流して楽しむ」方向だとすれば、BRZは「安定感の中でコントロールする」方向。どちらが正解というわけではありませんが、同じ素材から違う料理を作ろうとしている意志は明確です。

スバルの開発陣は、ZD8の開発にあたって「安心して限界を探れるクルマ」という表現を使っています。これは初代の「とにかく軽くて楽しい」とは少し違うニュアンスです。速さよりも信頼感、刺激よりも懐の深さ。スバルが考える「運転の楽しさ」の定義が、二代目でより具体的になったと言えます。

スバルにとってのFRスポーツという矛盾

そもそもスバルがFRスポーツカーを作ること自体が、ブランドの文脈からすると異質です。スバルといえば水平対向エンジンとシンメトリカルAWD。その両輪で走ってきたメーカーが、片方を捨てたクルマを看板商品のひとつにしている。この矛盾は、初代から二代目になっても解消されていません。

ただ、矛盾を抱えたまま続けていること自体に意味があります。BRZがなければ、スバルのラインナップは実用車とSUVだけになります。WRX STIが生産終了した現在、スバルの「走り」を体現する市販車はBRZだけです。

トヨタとの協業がなければ、この価格帯のスポーツカーをスバル単独で開発・生産し続けるのは難しかったでしょう。共同開発だからこそ成立するビジネスモデルの中で、それでも自社の色を出そうとしている。ZD8はその努力の結晶です。

二代目が証明したこと

ZD8型BRZは、初代の成功と反省の両方を正直に受け止めたクルマです。パワーの不足は排気量拡大で解決し、ボディ剛性は新プラットフォームで底上げし、兄弟車との差別化はセッティングの哲学で表現した。どれも派手な飛び道具ではなく、正攻法の積み重ねです。

電動化が進む時代に、自然吸気の水平対向エンジンを積んだFRスポーツカーがどこまで続くのかはわかりません。次の世代があるかどうかも、正直なところ不透明です。

だからこそ、ZD8は「今できる最善をやった世代」として記憶される可能性が高い。初代が「こんなクルマが作れるんだ」という驚きだったとすれば、二代目は「こういうクルマをちゃんと作り続けられるんだ」という信頼です。

スバルにとってBRZは異端児かもしれませんが、異端児が二代続いたら、それはもう系譜です

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