フェアレディZが一度、消えたことがある。正確には「消えた」というより「出せなくなった」と言ったほうが近いかもしれません。
1990年代後半、日産は深刻な経営危機のさなかにあり、スポーツカーを作り続ける余裕などなかった。
Z32型の生産終了が2000年。そこから次のZが出るまで、実に6年の空白がありました。
2008年に登場したZ34型は、その沈黙のあとに生まれた「復帰作の、さらに次」です。
つまり、ただの新型ではなく、Zというブランドをどう再定義するかという問いへの、日産なりの二度目の回答でした。
Z33が残した宿題
Z34を語るには、まず先代のZ33に触れないわけにはいきません。2002年に登場したZ33は、カルロス・ゴーン体制下の日産リバイバルプランの象徴的モデルでした。「Zを復活させる」というメッセージは強烈で、ブランド再生の旗印としては見事に機能しました。
ただ、クルマとしての評価は少し複雑です。プラットフォームはFMパッケージと呼ばれるスカイラインと共用の設計で、ホイールベースは2,650mm。これはスポーツカーとしてはやや長い。車重も1,500kgに迫り、「軽快に走る」というよりは「パワーで押し切る」タイプのGT寄りの性格でした。
もちろんそれが悪いわけではありません。ただ、Zの名を冠するクルマとしては「もう少し身軽であってほしい」という声が、発売当初からずっとあった。Z34の開発は、まさにこの宿題に向き合うところから始まっています。
100mm短くした意味
Z34の最大のトピックは、ホイールベースをZ33比で100mm短縮して2,550mmにしたことです。
数字だけ見ると地味に思えるかもしれませんが、これはかなり大きな決断でした。同じFMプラットフォームを使いながら、わざわざホイールベースを詰めている。共用化でコストを下げたいのが本音の自動車メーカーにとって、専用設計に近い変更を加えるのは簡単な判断ではありません。
当時の開発陣は「Zらしい俊敏さを取り戻す」ことを明確に掲げていました。ホイールベースの短縮は回頭性に直結します。ノーズの入り方、コーナーでの身のこなし、ドライバーの操作に対する応答の速さ。そういった感覚的な部分を変えるために、100mmを削った。
全長も4,250mmとZ33より短くなり、全体のプロポーションがぎゅっと凝縮されました。見た目にも「短く、低く、幅広い」印象が強まり、スポーツカーとしての存在感がはっきりしています。
VQ37VHRという選択
エンジンはVQ37VHR型の3.7リッターV6自然吸気。最高出力336PS、最大トルク365Nm。Z33後期の3.5リッターVQ35HRから排気量を拡大し、VVELと呼ばれる連続可変バルブリフト機構を新たに採用しました。
VVELは吸気バルブのリフト量を無段階に制御する技術で、スロットルバルブに頼らずに吸入空気量を調整できます。要するに、アクセル操作に対するエンジンの反応がダイレクトになる。低回転域のトルクを確保しつつ、高回転まで気持ちよく回る特性を両立させるための仕掛けです。
この時代、ターボ化の流れはすでに始まっていましたが、Z34はあえて自然吸気を選んでいます。レスポンスの良さ、リニアなパワーの出方、そしてZらしいフィーリングを優先した結果でしょう。7,000rpm超まで回るエンジンの伸びやかさは、ターボとは違う種類の快感があります。
走りの質感と、GT的な懐の深さ
Z34の走りは、先代と比べて明らかにシャープになりました。ホイールベース短縮の効果は大きく、特にワインディングでの身のこなしは別物です。ステアリングを切った瞬間のノーズの反応が早く、ドライバーの意図とクルマの動きの間にあったわずかなズレが小さくなっている。
一方で、完全なピュアスポーツかというと、そこは少し違います。車重は依然として1,480〜1,540kg程度あり、ロータスやポルシェ・ケイマンのような軽さとは別の世界にいます。ただ、これは欠点というより性格の問題です。Z34は高速巡航も快適にこなせるGT的な懐の深さを持っていて、長距離を走っても疲れにくい。日常使いとスポーツ走行を一台で両立させるという、Zの伝統的な立ち位置をきちんと守っています。
トランスミッションは6速MTと7速ATの二本立て。7速ATはマニュアルモードでのシフトレスポンスも悪くなく、ATでスポーツカーに乗るという選択肢をきちんと成立させていました。MTのシフトフィールは世代を追うごとに改善され、シンクロレブマッチと呼ばれる自動ブリッピング機能も搭載。これは賛否が分かれましたが、「MTに乗りたいけどヒール&トゥは苦手」という層の間口を広げる意味がありました。
13年売り続けた異例のロングセラー
Z34は2008年のデビューから2022年の生産終了まで、実に13年以上にわたって販売されました。途中で何度かの年次改良はあったものの、フルモデルチェンジは行われていません。これは現代の自動車としてはかなり異例の長寿命です。
背景にはいくつかの事情があります。まず、日産自身の経営状況が再び厳しくなり、スポーツカーの後継開発に十分なリソースを割けなかったこと。そして、排ガス規制や安全基準の強化に対応しながら既存モデルを延命させる必要があったこと。Z34が長く売られたのは、人気があったからというだけでなく、次を出す余裕がなかったからでもあります。
ただ、裏を返せば、13年間売り続けられるだけの基本設計の良さがあったとも言えます。デザインは年月を経ても古びにくく、VQ37VHRの動力性能も最後まで第一線で通用するレベルでした。ニスモバージョンでは350PSまで引き上げられ、足回りもさらに締め上げられています。
Zの系譜における位置づけ
Z34は、初代S30から数えて6代目にあたります。S30が切り拓いた「手の届くスポーツカー」という思想は、時代ごとに解釈を変えながら受け継がれてきました。Z34の場合、それは「肥大化したZを、もう一度スポーツカーの方向に引き戻す」という仕事だったと言えます。
後継のRZ34型、つまり現行Zが2022年に登場した際、エンジンはついにV6ツインターボへと切り替わりました。Z34の自然吸気V6は、Zの歴史の中で最後のNA大排気量エンジンということになります。環境規制の流れを考えれば、この先同じようなエンジンが載ることはまずないでしょう。
Z34は派手な革新を打ち出したクルマではありません。
プラットフォームは先代の改良型だし、エンジンもVQファミリーの延長線上にある。けれど、100mmのホイールベース短縮に象徴されるように、「何を削り、何を残すか」という判断の精度が高かった。
限られたリソースの中で、Zらしさとは何かを問い直し、きちんと形にした一台です。
それが13年間、多くのオーナーに選ばれ続けた理由なのだと思います。

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