スカイラインが「走り」ではなく「運転支援技術」で話題になった。それだけで、この世代が何を背負っていたかが伝わるはずです。
2019年にマイナーチェンジという形で登場したRV37型スカイラインは、日産が世界に先駆けて実用化した「プロパイロット2.0」を搭載し、高速道路での同一車線内ハンズオフ走行を実現しました。
スカイラインの歴史において、テクノロジーがここまで前面に出た世代は他にありません。
V37からRV37へ──マイナーチェンジの皮をかぶった転換点
まず整理しておきたいのは、RV37は完全な新型車ではないということです。ベースとなったのは2014年に登場したV37型スカイライン。これ自体がインフィニティQ50の国内版という、やや複雑な出自を持つモデルでした。
V37型はデビュー時、フロントに日産エンブレムではなくインフィニティのバッジを付けて販売されました。これは当時の日産がグローバルブランド戦略の一環として進めたもので、国内のスカイラインファンからは少なからず反発を受けています。「スカイラインなのにスカイラインじゃない」──そんな空気が、このモデルにはずっとつきまとっていました。
2019年のマイナーチェンジで、日産はフロントバッジをインフィニティから日産に戻しました。たかがエンブレムの話に聞こえるかもしれませんが、これは象徴的な判断です。スカイラインを「日産の車」として再び引き受ける、という意思表示だったからです。
型式がV37からRV37に変わったこのタイミングで、クルマの中身も大きく変わっています。単なるフェイスリフトではなく、パワートレインの刷新と先進運転支援の搭載という、商品の骨格に関わる変更が入りました。
プロパイロット2.0という賭け
RV37最大のトピックは、プロパイロット2.0の世界初搭載です。これは高速道路のナビ連動ルート走行と、同一車線内でのハンズオフ走行を組み合わせた運転支援システムで、ドライバーが前方を注視していることをカメラで確認しながら、ステアリングから手を離した状態での走行を可能にしました。
「手を離せる」という表現だけを聞くと自動運転のように思えますが、実態はあくまでレベル2の運転支援です。つまり、最終的な責任はドライバーにある。それでも、量産車でハンズオフを実現したことのインパクトは大きかった。テスラのオートパイロットとは異なるアプローチで、日産は「目を離さなければ手は離せる」という落としどころを提示したわけです。
注目すべきは、この技術をスカイラインに載せたという選択です。リーフやセレナではなく、スカイライン。日産にとってスカイラインは技術のショーケースであるという伝統が、ここにも効いています。かつてのGT-Rがそうだったように、最も先進的な技術はスカイラインで世に問う──その姿勢は、技術の中身が走行性能から運転支援に変わっても一貫していました。
VR30DETTとスポーツセダンの矜持
プロパイロット2.0が注目を集める一方で、RV37にはもうひとつ重要な変更がありました。エンジンです。V37型の前期に搭載されていたダイムラー製の2.0リッター直4ターボに代わり、RV37では日産内製のVR30DETT──3.0リッターV6ツインターボが搭載されました。
このエンジンは最高出力304ps(400Rでは405ps)を発生する、日産が本気で作ったユニットです。特に400Rグレードは、かつてのスカイラインGT系を思わせるような動力性能を持ち、0-100km/h加速は4秒台後半とされています。
ダイムラー製エンジンからの切り替えには、ルノー・日産・三菱アライアンスの中での戦略変化が背景にあります。V37前期はダイムラーとの提携が色濃く反映されていましたが、その関係が薄れるにつれ、日産は自社技術への回帰を進めました。RV37のパワートレイン変更は、その流れの中で読むとよく理解できます。
つまりRV37は、先進運転支援というフォワードルッキングな技術と、V6ツインターボというスポーツセダンとしての伝統を、1台の中に同居させたモデルでした。この二面性こそが、RV37の最も興味深いところです。
「最後のスカイライン」という空気の中で
RV37を語るうえで避けて通れないのは、「スカイラインはこれで終わるのではないか」という空気が常にあったことです。日産の経営状況、セダン市場の縮小、国内ラインナップの整理──どれをとっても、スカイラインの次世代を楽観できる材料はありませんでした。
実際、販売台数は決して多くありません。月販数百台という水準は、かつてのスカイラインの存在感とは明らかに異なります。ただ、これはスカイラインだけの問題ではなく、国産スポーツセダン全体が直面している構造的な課題です。
それでも日産がRV37でスカイラインに大きな投資をしたのは、このクルマがブランドのアイデンティティそのものだからでしょう。プロパイロット2.0を最初に載せる器として、400psのV6ターボを与える器として、スカイラインという名前には他の車種にない意味がありました。
2024年末にはスカイラインの生産終了が報じられ、60年以上続いた系譜に一区切りがつくことになります。RV37は結果的に、内燃機関を搭載する最後のスカイラインとなる可能性が高い世代です。
テクノロジーの器としてのスカイライン
スカイラインの歴史を振り返ると、このクルマは常に「日産が今持っている最良のもの」を詰め込む器でした。S54型のGT-Rがレース技術の結晶だったように、R32がアテーサE-TSとRB26の実験場だったように、RV37はプロパイロット2.0とVR30DETTの実装の場でした。
載せるものが変わっただけで、スカイラインの役割は変わっていません。ただ、その「載せるもの」がエンジンや足回りだけでなく、センサーとソフトウェアにまで広がったことが、時代の変化を如実に映しています。
RV37は、走りの歓びと先進技術の両立を一台で試みた、野心的で少し不器用なスカイラインでした。プロパイロット2.0のハンズオフに感動する人と、400Rのエンジンフィールに惚れる人が、同じ車種の中にいる。
その振れ幅の大きさこそが、最後の内燃機関スカイラインにふさわしい姿だったのかもしれません。

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