BMWのMモデルで、いちばん小さくて、いちばん尖っていて、いちばん「これが最後かもしれない」と囁かれている車。
それがG87型M2です。
そしてその頂点に置かれたCSは、単なるハードコア仕様ではなく、ピュアエンジンMカーの最終到達点としての意味を帯びています。
M2という存在の特殊性
M2は、Mモデルのラインナップの中では末弟にあたります。2シリーズクーペをベースにM社が仕立てたコンパクトな高性能車で、M3やM4より小さく、軽く、そして安い。ただ、「安いM」というだけの存在ではありません。
歴代のM2には、常に「小さいからこそできる走りの純度」を求めるファンがついてきました。初代F87はN55系の直6ターボで登場し、後にS55エンジンを積むM2コンペティションへ進化。さらにCSが追加されて、短い生涯のなかで急速に評価を高めた車種です。
つまりG87型M2は、その期待を一身に背負った2代目ということになります。しかも今度は、ベースとなる2シリーズクーペ自体がCLARプラットフォームに移行し、車格がひとまわり大きくなった。ここに最初の論点があります。
S58エンジンという選択の意味
G87型M2の心臓部は、S58型3.0L直列6気筒ツインターボです。これはM3(G80)やM4(G82)と同じユニット。つまり、M2はもはや「格下のエンジンを積んだ弟分」ではなく、兄貴たちと同じ心臓を持つ存在になりました。
標準のM2で最高出力460PS、最大トルク550Nm。先代M2コンペティション(S55・410PS)と比べても大幅な上乗せです。ただし、この数値だけを見て「パワーアップしたね」で終わらせると本質を見落とします。
S58は、BMWのM社が現行世代の直6ターボとして開発した集大成的なエンジンです。M3やM4ではこのエンジンにxDrive(四駆)を組み合わせる選択肢もありますが、M2は後輪駆動のみ。ホイールベースが短い後輪駆動車に460PSを載せるという判断は、かなり割り切った設計思想です。
トランスミッションは6速MTと8速ATの2本立て。MTを残したことは、この車がどういう層に向けて作られているかを雄弁に語っています。
大きくなったボディと、変わった立ち位置
G87で避けて通れないのが、ボディサイズの拡大です。全長4,580mm、全幅1,887mm。先代F87と比べると全長で約120mm、全幅で約30mm大きくなっています。ホイールベースも伸びました。
これは2シリーズクーペ自体のプラットフォーム変更に起因するもので、M2だけが太ったわけではありません。ただ、M2の魅力が「コンパクトなMカー」にあったことを考えると、この拡大は賛否が分かれるポイントでした。
車重も約1,700kgに達しており、先代比で増加しています。パワーウェイトレシオは改善しているものの、「軽快に振り回せるM」というイメージからは少し遠ざかった印象があるのも事実です。
一方で、トレッドの拡大やサスペンションジオメトリの見直しにより、高速域での安定性と限界域のコントロール性は明確に向上したとされています。要するに、ヤンチャな弟分から、実力のある中堅へとキャラクターが変わったわけです。
CSが意味するもの
2024年に発表されたM2 CSは、G87型M2の頂点に位置するモデルです。CSは「Competition Sport」の略で、BMW M社のヒエラルキーでは標準モデルとCSL(Competition Sport Lightweight)の間に置かれるグレードです。
エンジン出力は550PSに引き上げられました。標準M2の460PSから90PSの上乗せ。S58エンジンのポテンシャルをほぼ限界まで引き出した仕様といえます。トルクも650Nmに達し、M3 CSと同等の数値です。
注目すべきは、CSでもMTが選べるという点です。多くのハイパフォーマンスモデルがATのみに絞る中、M2 CSはMTを残しました。これはM社がこの車のキャラクターをどう定義しているかの表明です。速さの数値ではなく、ドライバーとの対話を最優先にしているということです。
足回りはアダプティブMサスペンションが専用チューニングされ、フロントにはより大径のブレーキディスクが装着されます。カーボンファイバー製のルーフやボンネット、リアスポイラーにより、わずかながら軽量化も図られています。
ただし、CSLのような大幅な軽量化は行われていません。あくまで「走りの質を高めた上級仕様」であり、レーシングカーの延長ではない。この線引きがCSというグレードの本質です。
電動化前夜のMカーとして
G87型M2、そしてM2 CSを語るうえで外せないのが、電動化という時代の文脈です。BMWはすでにiX M60やi4 M50といった電動Mモデルを展開しており、次世代のM3やM4は電動化される可能性が高いと見られています。
つまり、S58エンジンを積む現行Mモデルは、純粋な内燃機関だけで走る最後の世代になるかもしれない。M2 CSは、その最終世代における最小・最軽量のモデルです。
この文脈を知ると、M2 CSの550PSという数字や、MTを残すという判断が、単なる商品企画を超えた意味を持っていることがわかります。M社は、エンジンで走るMカーの最後の章を、いちばん小さな車で締めくくろうとしている。そう読むこともできます。
もちろん、これは現時点での推測を含みます。BMWが今後どのようなパワートレイン戦略を取るかは確定していません。ただ、少なくとも2024年時点のM2 CSが「駆け込み需要」的な熱量で受け止められていることは間違いありません。
末弟が背負ったもの
M2は、Mモデルの中でもっとも手が届きやすく、もっとも趣味性が高い車として支持されてきました。G87型ではボディが大きくなり、パワーが上がり、価格も上がった。先代のような「やんちゃな小型M」とは少し違う車になったのは事実です。
しかし、S58エンジン、後輪駆動、マニュアルトランスミッション。この組み合わせが2024年に新車で手に入るということ自体が、すでに特別な意味を持っています。M2 CSはその到達点であり、ある種の記念碑です。
速さだけなら電動パワートレインがいずれ凌駕するでしょう。
でも、エンジンの回転上昇と右足の踏み込みが直結する感覚、シフトレバーを叩き込む手応え、排気音の変化。
そうした体験を凝縮した最後の世代として、G87型M2とCSは記憶されることになるはずです。

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