MINIが電気自動車に本気で舵を切った2024年、同時にガソリンエンジンのCooper Sも刷新されました。型式はF66。
これだけ聞くと「まあモデルチェンジだよね」で済みそうですが、このタイミングで内燃機関モデルを新設計するという判断には、それなりの意味があります。
電動MINIと同時に出た、もうひとつの新世代
2024年に登場した第5世代のMINI 3ドアハッチバックは、大きく分けて2つの系統があります。ひとつはフル電動のCooper E / Cooper SE(J01型)。
もうひとつが、ガソリンエンジンを搭載するCooper C / Cooper S(F66型)です。
注目を集めたのは、やはり電動モデルのほうでした。ブランドとして「2030年代前半にフル電動化」を掲げている以上、それは当然です。ただ、その裏でF66がきちんと新設計されていたという事実は見逃せません。
つまりMINIは、電動化の未来を語りながらも、「いま買う人」のためにガソリンモデルを手抜きせず作り直しています。これは単なる延命ではなく、過渡期をどう乗り切るかという戦略的な判断です。
開発の背景にあるもの
F66の開発を理解するには、まずMINIというブランドが置かれた状況を整理する必要があります。親会社BMWは電動化を強力に推進していますが、MINIの主要市場であるヨーロッパでは、充電インフラの普及度合いに地域差がまだ大きい。全顧客をいきなりEVに移行させるのは現実的ではありません。
加えて、先代にあたるF56型Cooper Sは商業的に成功したモデルです。2014年の登場以降、2度のLCI(ライフサイクルインパルス、いわゆるマイナーチェンジ)を経て約10年間販売されました。この顧客層をつなぎとめるには、ガソリンモデルの刷新が不可欠だったわけです。
もうひとつ重要なのが、生産体制の変化です。電動モデルのJ01型は中国・張家港の工場で生産されていますが、F66型はイギリス・オックスフォードのカウリー工場で組み立てられます。MINIにとってオックスフォード生産は、ブランドのアイデンティティそのものです。内燃機関モデルを残すことは、この工場の稼働を維持する意味でも重要でした。
エンジンと走りの中身
F66型Cooper Sに搭載されるのは、BMW・MINIでおなじみの2.0リッター直列4気筒ターボです。型式はB48系で、最高出力は204PS。先代F56後期のCooper Sと数値上は同等ですが、制御の最適化が進んでいます。
トランスミッションは7速DCT(デュアルクラッチ)。先代の後期モデルから引き続きの採用です。かつてのアイシン製トルコン式ATから切り替わったこの変速機は、レスポンスの鋭さでCooper Sの性格によく合っています。
ただし、ここで注目すべきはエンジン単体のスペックよりも、車両全体の仕立てのほうです。F66はプラットフォームこそ先代の発展型ですが、ボディ剛性の向上、サスペンションジオメトリの見直し、そして電子制御ダンパーの採用(グレードによる)など、走りの質感を底上げする方向に手が入っています。
要するに、「速さ」ではなく「走りの密度」を上げてきた世代です。204PSという数字は飛び抜けたものではありませんが、MINIのサイズと重量であれば十分以上。むしろこの出力をどう使い切るかという部分に開発のリソースが振られています。
デザインとインテリアの転換点
F66で最も目に見えて変わったのは、内外装のデザインです。エクステリアはMINIらしい丸目のアイコンを残しつつ、ディテールを大幅に整理しました。先代まであったボンネットのスクープ風デザインやクロームの縁取りは抑えられ、よりクリーンな面構成になっています。
インテリアの変化はさらに大きい。円形のOLEDディスプレイがダッシュボード中央に据えられ、物理スイッチは大幅に削減されました。操作系はほぼすべてこのディスプレイとトグルバーに集約されています。
これには賛否があります。MINIの伝統だったセンターメーター的な円形デザインを現代的に再解釈した、という見方もできますし、物理スイッチの減少を「使いにくくなった」と感じる人もいるでしょう。ただ、電動モデルのJ01型と内装を共通化するという合理的な理由があってのことで、コストと開発効率の面では理にかなった判断です。
もうひとつ見逃せないのが、ニットのようなテクスチャのダッシュボード表面です。ファブリック素材をインパネに使うという選択は、従来の自動車インテリアの文法からは外れています。好みは分かれるところですが、MINIが「小さな高級車」ではなく「個性的なライフスタイルの道具」としてのポジションを明確にしようとしていることは伝わります。
先代F56から何が変わったのか
先代F56型は、BMW傘下で開発された第3世代MINIの完成形ともいえるモデルでした。UKL1プラットフォームを採用し、BMW 1シリーズやX1と基本構造を共有。走りの質は高かったものの、「MINIらしさとは何か」という問いに対しては、世代を追うごとに答えが曖昧になっていた面もあります。
F66はその問いに対して、ひとつの回答を出そうとしています。ボディサイズは先代とほぼ同等で、大型化の誘惑には乗っていません。全長はおよそ3,860mm前後。「小さいからこそ楽しい」というMINIの原点を、少なくともサイズの面では守ろうとしています。
一方で、デジタル化とソフトウェアの比重は明らかに増しました。MINI Operating System 9と呼ばれる新しいインフォテインメントシステムは、OTAアップデートにも対応します。クルマの性格をソフトウェアで変えられる時代に入ったことを、このモデルは如実に示しています。
内燃機関MINIの「最後の世代」になるのか
F66型Cooper Sが持つ最大の意味は、「これがガソリンエンジンを積む最後のMINI 3ドアになるかもしれない」という点にあります。MINIは2030年代前半のフルEV化を公言しており、F66のモデルライフが7〜8年だとすれば、次の世代は電動のみになる可能性が高い。
だからこそ、このモデルには一種の「集大成」としての性格が宿っています。エンジンのフィーリング、コンパクトなボディでの軽快なハンドリング、ゴーカートフィーリングと呼ばれてきた独特の接地感。それらを最新の電子制御と融合させたのがF66です。
まあ、「最後だから買っておけ」という話ではありません。ただ、内燃機関のMINI Cooper Sというものが持っていた魅力を、最も洗練された形で味わえるのがこの世代であることは、おそらく間違いないでしょう。
電動化という大きな潮流のなかで、F66は「いま、ここにいる顧客」のために作られたクルマです。
未来を見据えつつ、現在を手放さない。その判断の重さは、数年後にもっとはっきり見えてくるはずです。

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