軽自動車のオープンスポーツカーに、いったい何種類の顔が必要なのか。
普通に考えれば、答えは「1つで十分」でしょう。
けれど2代目コペン・LA400Kは、最終的に4つの異なる外装バリエーションを持つクルマになりました。
しかもそれは単なるグレード違いではなく、ユーザーが後から着せ替えられるという、ちょっと信じがたい構造の上に成り立っています。
なぜダイハツはそんな回りくどいことをしたのか。
そこには、初代の成功と限界、そして軽スポーツという市場の厳しい現実がありました。
初代が残した宿題
初代コペン・L880Kは2002年に登場し、軽自動車の電動オープンカーという唯一無二のポジションを築きました。
660ccの直4ターボに電動ルーフ、丸みを帯びた愛嬌のあるデザイン。趣味性の高いクルマとして一定のファンを獲得し、2012年まで実に10年間も生産が続いています。
ただ、10年というロングセラーの裏側には、後継を出しにくいという事情もありました。
初代は開発陣の情熱で実現した、いわば「通してもらえた企画」です。台数が爆発的に売れるジャンルではない以上、次をやるなら相応の理屈が必要でした。
加えて、初代のオーナー層には「このデザインだから買った」という人が多かった。
2代目でデザインを変えれば初代ファンが離れるかもしれないし、変えなければ新しい客が来ない。スポーツカーの世代交代で必ずぶつかるこの問題に、ダイハツは正面からではなく、構造そのもので答えを出そうとしました。
D-Frameという構造的な解
LA400Kの核心は、D-Frame(ディーフレーム)と呼ばれる骨格構造にあります。これは簡単に言えば、クルマの骨格と外板パネルを分離した設計思想です。
強固な内板骨格がボディ剛性や安全性を担い、外板の樹脂パネルは「着せ替え可能な外装」として機能します。
この構造を採用した理由は、単に遊び心だけではありません。ダイハツが「ドレスフォーメーション」と名付けたこの仕組みには、いくつかの合理的な狙いがありました。
まず、1車種で複数のデザインを展開できること。
軽スポーツのようなニッチ市場で、デザイン違いのために別の車種を起こすのは採算的に無理があります。しかし外板だけを変えられるなら、プラットフォームは1つで済む。
開発コストを抑えながら、異なる好みの顧客にリーチできるわけです。
もうひとつは、購入後にオーナーが外装を変えられるという体験価値。
クルマは買ったら基本的にそのままですが、コペンは外板パネル13枚をディーラーで交換できる設計になっています。
飽きたら着せ替える。これはクルマの所有体験としてはかなり異質で、ダイハツとしても新しい提案でした。
4つの顔が意味するもの
LA400Kは2014年6月、まず「Robe(ローブ)」として発売されました。流麗で丸みのあるデザインで、初代の空気感を少し引き継ぎつつモダンに仕上げたモデルです。
同年11月には「XPLAY(エクスプレイ)」が追加されます。こちらはSUVテイストを取り入れた、やや無骨な顔つき。同じ車台から、まったく違う印象のクルマが出てくるという体験を、ダイハツは早い段階で見せにきました。
そして2015年6月に登場したのが「Cero(セロ)」です。丸目ヘッドライトを採用し、初代コペンを思わせるクラシカルな表情を持つこのモデルは、初代ファンの受け皿として明確に企画されています。
実際、セロの登場で販売は上向いたと言われており、着せ替え構造が商品戦略として機能した好例と言えます。
さらに2019年には、トヨタとの協業で生まれた「GR SPORT」が加わりました。
TOYOTA GAZOO Racingの手が入った専用チューニングが施され、足回りやボディ補強が強化されています。
これは着せ替えの文脈というより、トヨタとの資本関係を活かした展開ですが、
D-Frameという構造があったからこそ、外装の差別化を含めたバリエーション展開がスムーズだったのは間違いありません。
走りの中身はどうだったのか
エンジンは初代の直4から、KF型の直列3気筒ターボに変わりました。
排気量は同じ660ccですが、3気筒化によって軽量・コンパクトになり、低回転域のトルクも改善されています。最高出力64馬力は軽自動車の自主規制枠いっぱいで、ここは初代と同じです。
トランスミッションは5速MTとCVTの2本立て。CVTにはステアリングシフト用のパドルが付き、7速マニュアルモードが使えます。MTを残したのは、このクルマの顧客にとってそれが必須だったからです。実際、コペンの購入者におけるMT比率はかなり高い水準を維持していました。
シャシーはダイハツの軽用プラットフォームをベースにしつつ、オープンボディに必要な剛性を確保するため、フロアやサイドシルを大幅に強化しています。電動ルーフは初代から引き続き採用され、約20秒で開閉が完了します。トランクにルーフを格納する構造も踏襲されており、屋根を開けると荷室はほぼ使えなくなる。ここは割り切りですが、コペンを買う人はそれを承知の上です。
車重は約870kg。軽自動車としては重い部類ですが、オープンボディで電動ルーフを積んでこの数字なら、十分に頑張っていると言えます。初代の約830kgからは増えていますが、衝突安全基準の厳格化を考えれば妥当な範囲でしょう。
着せ替えは受け入れられたのか
正直に言えば、「実際に着せ替えた」オーナーはそこまで多くなかったようです。
パネル一式の交換費用はそれなりにかかりますし、わざわざ外装を変えるという行為自体、多くのユーザーにとってはハードルが高い。ドレスフォーメーションは話題性としては抜群でしたが、実用面での普及率は限定的だったと見るのが妥当です。
ただ、この構造が無意味だったかというと、そうではありません。
着せ替えの仕組みがあったからこそ、ローブ、エクスプレイ、セロ、GR SPORTという4つのバリエーションを1つのプラットフォームから展開できた。
個々のオーナーが着せ替えるかどうかより、メーカー側が商品ラインを柔軟に広げられたという点に、D-Frameの本当の価値があったのかもしれません。
また、外板が樹脂パネルであることは、軽微なぶつけに対する修理コストの低減にも寄与しています。日常的に使う軽自動車としては、地味に嬉しいポイントです。
軽スポーツを続けるための発明
LA400Kを振り返ると、このクルマは「軽スポーツをどうやって存続させるか」という問いに対するダイハツなりの回答だったことがわかります。
台数が出ないジャンルで、開発費を回収し、複数の顧客層にリーチし、長く売り続ける。そのために編み出されたのがD-Frameとドレスフォーメーションでした。
結果として、LA400Kは2014年の発売から2024年に至るまで、10年にわたって販売が続きました。
かなりの初代と同じく、ロングセラーです。途中でGR SPORTという強力なバリエーションを得たことも、商品寿命を延ばす効果があったでしょう。
ダイハツの認証不正問題の影響で生産が一時停止し、コペンの将来は不透明であった部分もあります。ただ、LA400Kが「着せ替え」という一見キワモノに見えるアイデアの奥に、軽スポーツを成立させるための冷静な構造設計を持っていたことは、もっと評価されていいはずです。
趣味のクルマを作り続けるには、情熱だけでは足りない。仕組みが要る。
LA400Kは、その仕組みを発明したクルマでした。

コメントを残す