カテゴリー: GR ヤリス

  • ヴィッツ GRMN(NCP131)が欲しい? ならこう探す【150台限定を、履歴で選ぶ】

    ヴィッツ GRMN(NCP131)が欲しい? ならこう探す【150台限定を、履歴で選ぶ】

    1.8Lの直列4気筒(2ZR-FE)にスーパーチャージャーを組み合わせて212馬力/250N・m、変速機は6速MTのみ、車重は1,140kg。チューニングを担当したのはロータス。17インチのBBS鍛造ホイールに専用ブレーキ。そして国内150台限定。

    ヴィッツGRMNは、いまのGRブランドが立ち上がる瞬間に生まれた特別な一台です。そして中古で買おうとすると、普通の車とはまったく違う難しさにぶつかります。

    情報が少ないこと自体が、いちばんのリスク

    https://kuruma-dna.com/ncp131

    国内150台。この数字がすべてを決めています。

    中古車を選ぶとき、普通は「この車のこの部分が弱い」という蓄積された知見を頼りにします。オーナーが何千人もいれば、故障の傾向は自然に共有されるからです。ところがGRMNの場合、母数が150台しかありません。故障事例が語られていないのは、丈夫だからではなく、単に台数が少ないからという可能性が高い。

    つまりこの車は、「よくある持病」を避ける買い方ができません。代わりにできるのは、個体そのものの履歴を徹底的に確認することです。整備記録、走行距離、保管状況、前オーナーの使い方。これらが判断材料のほぼすべてになります。

    だから販売店選びが、そのまま個体選びになります。GRMNを扱った経験がある店、あるいは記録を追えるトヨタのディーラー系であれば、聞ける情報の量が違います。「詳しいことは分かりません」という店から買うのは、この車では特に危険です。

    専用部品が出るかどうか

    https://kuruma-dna.com/gxpa16

    GRMNのうち、ベースのヴィッツ(NCP131系)と共通する部分は、消耗品も含めて比較的入手しやすいはずです。問題は専用部品です。

    スーパーチャージャー本体とその周辺、専用のブレーキ、BBSの鍛造ホイール、そして専用内装。これらは150台ぶんしか作られていません。破損や欠品があった場合、代替が見つからない可能性を前提に考える必要があります。

    中古で検討するなら、ホイールのガリ傷、ブレーキの残厚、内装の欠品を細かく見てください。他の車なら「あとで直せばいい」で済む部分が、この車では致命的な減点になり得ます。

    同時に、ベース車のヴィッツ(NCP131系)と共通する部分は、消耗品を含めて比較的手に入ります。ブレーキパッド、ブッシュ、ゴム類といった通常の整備で困ることは少ないでしょう。専用部品と共通部品を切り分けて考えるのが、この車の維持のコツです。

    個体が二極化している

    ヴィッツ GRMN(NCP131)
    画像:Tokumeigakarinoaoshima/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons

    抽選倍率が10倍以上と報じられた車です。当選した人の目的はさまざまで、その結果、いまの中古市場には性格の違う個体が混ざっています。

    価格の話もしておきます。GRMNは希少性から相場が高止まりしており、同じ予算でGRヤリスの中古が視野に入ることもあります。性能で選ぶならGRヤリス、歴史で選ぶならGRMNという整理が、いちばん正直なところです。

    ほとんど走っていない保存個体。 資産として買われ、屋内保管でごく短距離しか走っていない車。状態は良い一方、長期間動かしていない車特有の問題(ゴム類の劣化、ブレーキの固着、燃料系の劣化)があり得ます。価格も高めです。

    しっかり走らせてきた個体。 サーキットやラリーで使われた車もあります。GRMNはもともとそういう性格の車なので、これ自体は悪いことではありません。ただし過給機付きのエンジンを高負荷で使い続けた履歴は、内部に残ります。

    どちらを選ぶにせよ、距離が少ない=良い個体とは限らないことは押さえておいてください。動かしていない車には、動かしていない車の問題があります。

    長期保管された個体で特に見たいのは、タイヤの製造年週、ブレーキの引きずり、そしてゴムホース類の硬化です。走行距離が1万kmでも、10年動かしていなければゴムは10年ぶん劣化しています。

    逆に、定期的に走らせて整備してきた個体は、距離が伸びていても状態が良いことがあります。この車では、走行距離を状態の代理指標にしないでください。

    過給機付きとして、最低限見ておくこと

    https://kuruma-dna.com/nre210h

    加えて、スーパーチャージャーは吸気側の部品であるぶん、ターボと違って排気熱の影響を受けにくい構造です。過給機まわりの心配は、ターボ車より小さいと考えていいでしょう。心配すべきは、むしろ150台という台数のほうです。

    スーパーチャージャーはターボと違って排気熱の影響は小さいものの、機械式である以上ベルトやクラッチ、ベアリングといった消耗部品を持ちます。異音、加速時の過給感、ベルトの状態は試乗と目視で確認してください。

    オイル管理も重要です。過給機付きで高回転を使う車は、オイルの劣化が走行距離以上に効きます。記録簿でオイル交換の頻度を確認し、フィラーキャップの裏側も覗いておきましょう。

    現車確認で見るべきポイント

    ヴィッツ GRMN(NCP131)
    画像:TTTNIS/CC0(Wikimedia Commons
    • 整備記録簿:この車ではこれが最重要。記録が無い個体は、どれだけ見た目が良くても判断材料が無い
    • 走行距離の少なさの理由:長期保管か、単に乗っていないか。保管環境も聞く
    • 過給機まわり:加速時の過給感、ベルトの状態、異音
    • 専用部品の欠品と傷:BBSホイールのガリ傷、専用ブレーキの残厚、内装のパーツ
    • 足まわり:サーキット走行歴の有無。タイヤの摩耗パターン、ブレーキローターの状態
    • 修復歴:150台しかない車の修復歴は、その後の部品調達に直結する

    この車に手を出してよい人、やめた方がよい人

    https://kuruma-dna.com/s220

    維持費としては、1.8Lで自動車税は3万9500円の区分。車重1,140kgで燃費もそれほど悪くありません。普通に乗るぶんには、維持費で困る車ではありません。

    向いている人は、この一台が持つ意味に価値を感じる人です。ヴィッツGRMNは、GAZOO Racingがブランドとして形になる直前に、ロータスの手を借りて作った実験的な小型ホットハッチでした。GRヤリスへ至る流れの、最初の一歩にあたります。歴史の中の位置づけごと欲しいなら、代わりになる車はありません。

    やめた方がよい人は、走りの性能そのものを求める人です。212馬力の小型ハッチという体験は、いまならGRヤリスのほうが確実に速く、部品も情報も揃っています。走りだけを見るなら、GRMNを選ぶ合理性はありません。

    結局、ヴィッツGRMNの中古は買いなのか

    https://kuruma-dna.com/a90

    記録簿が揃っていて、専用部品に欠品や大きな傷がない個体なら買いです。 ただし価格は、性能に対してではなく希少性に対して付いています。そこを納得できるかどうかがすべてです。

    150台という数字は、これから増えることはありません。手放す人が現れたときにだけ、買う機会がある車です。

  • Vitz GRMN – NCP131【GR ヤリスの前日譚】

    Vitz GRMN – NCP131【GR ヤリスの前日譚】

    ヴィッツの話はするか迷いましたが、GRヤリスのDNAを語る上でこのクルマは必須だと思うので書きました。

    Vitz GRMNが切り開いたGRの夜明け

    https://kuruma-dna.com/nre210h

    2017年3月、トヨタは国内150台・欧州400台限定のVitz GRMNを発表しました。

    1.8 L 直列4気筒にスーパーチャージャーを組み合わせて212 PSを発生し、0-100 km/h加速は6秒台。

    エンジンは異例のロータスがチューニングを担当し、17インチBBS鍛造ホイールや専用ブレーキを備えた3ドア専用ボディで、小型ハッチバックの常識を大きく塗り替えました。 

    GRブランドとGAZOO Racing Companyの誕生

    Vitz GRMNの登場と同じ2017年、トヨタはモータースポーツ部門を統合してGAZOO Racing Companyを発足させ、スポーツモデルを「GR」「GR SPORT」「GRMN」の3階層に再編しました。

    ここから「レースで鍛え、市販車で還元する」開発思想が本格的に動き出します。 

    「サーキット直結」の小型ホットハッチ

    https://kuruma-dna.com/a90

    プロジェクトを率いたエンジニアたちは「排気量を上げずに欧州Bセグを圧倒する」を合言葉に、機械式LSD、専用サスペンション、強化ボディを投入しました。

    テストコースとニュルブルクリンクで繰り返した走行評価では、量産Vitzとは別物のシャープなステアリングフィールが追求され、コーナー脱出加速を重視したギア比の6速MTが選ばれています。 

    台数限定ゆえの「争奪戦」とラリー転戦

    日本では商談申込み開始からわずか数日で完売し、抽選倍率は10倍以上と報じられました。

    完売後もTOYOTA GAZOO Racingは全日本ラリー選手権へGRMN Vitz Rallyを投入し、開発データを公道で収集。

    小さなボディに高出力エンジンと機械式LSDという組み合わせが、タイトな林道でも有効であることを証明しました。 

    GRヤリスへの「渡り板」

    https://kuruma-dna.com/gxpa16

    Vitz GRMNで得られたパワートレーンや車体剛性強化のノウハウ、そして「限定でも採算を取る少量生産のビジネススキーム」は、後のGRヤリス開発を支える土台になりました。

    GAZOO Racing Companyが掲げる「走る→壊す→直す」の耐久テスト哲学もこのモデルで磨かれ、社内に「ホモロゲ級ホットハッチを本気で作れる」という成功体験を残しました。

    まとめ

    Vitz GRMNは、カタログモデルの外側に“本気のホットハッチ”を用意できることを示し、GRブランド黎明期を象徴する一台となります。

    その小型・高出力・限定生産というパッケージは、2020年のGRヤリスへと確かに継承され、トヨタのモータースポーツ起点のクルマづくりを今日まで牽引し続けています。

    この一台がGRヤリスへつながっていく背景は、コラムで別に追っています。

    https://kuruma-dna.com/akio-toyoda-gr-yaris

  • GRヤリス – GXPA16【執念が生んだトヨタの異物】

    GRヤリス – GXPA16【執念が生んだトヨタの異物】

    このクルマ、実はトヨタの多方面からのDNAを受け継いでいて、

    まずは直系とも言えるVitz系のコンパクトカーのDNAです。特にVits GRMNはGRヤリスの起源と言っても過言ではありません。

    次にWRCホモロゲーションモデルのDNA。セリカ GT-Fourを最後にトヨタはWRCホモロゲモデルを出していませんでしたが、ここにきて約「35年越し」に復活したラリー4WDの血筋も引いているのです。

    …と二つあるのですが、今回は直系であるVitzから続くDNAを中心としてみていきます。(セリカまで含めるととんでもない文量になってしまうので…)

    GRヤリスの起源「Vitz GRMN」

    https://kuruma-dna.com/ncp131

    2017年に150台限定で発売されたVitz GRMNは、1.8 Lスーパーチャージャーエンジンと6速MTを組み合わせた小型高性能モデルでした。

    台数こそわずかでしたが、「もっと過激なホットハッチを市販化できる」という社内の自信を育て、後のGRヤリス計画に直結する重要な一歩となります。

    社長勅令で始動したホモロゲーション計画

    トヨタ社長兼マスタードライバーの豊田章男(Morizo)氏は、「WRCで勝てる市販車をつくる」という明確な目標を掲げ、開発部門を束ねるGAZOO Racing Companyにプロジェクトを指示しました。

    開発責任者にはWRC現場出身の斎藤直彦氏が就任し、「走る→壊す→直す」を徹底する耐久テストを主導し、開発サイクルを確立していきます。

    この鍛えの哲学が、後にGRヤリスを生み出す原動力になります。 

    モトマチ「GR Factory」誕生

    GRヤリスについては他の車種とは違い、異例中の異例で量産体制の革新が行われました。ここからもGR ヤリスに対するトヨタの本気度が伺えますね。

    2020年、愛知・元町工場の一角にGR Factoryが新設されます。コンベヤを使わず、セルごとに車体がAGVで運ばれる方式を採用し、熟練工が手作業に近い精度で溶接・組付けを行います。

    余談ですが、低ボリュームでも高剛性と高精度を両立できるこのラインは、現在ではGRヤリスとGRカローラを同時に生産するようになりました。 

    初代GR Yarisの登場

    こうして誕生したGRヤリス(GXPA16)は、前半分にGA-B、後半分にGA-Cを組み合わせた3ドア専用ボディを採用し、1.6 L直列3気筒ターボエンジン(G16E-GTS:272 PS/370 Nm)と前後可変配分4WDシステムである「GR-FOUR」を搭載しました。

    アルミパネルやCFRPルーフで車重を1,280 kgに抑え、量産車では異例の「ホモロゲーション専用シャシー」を実現しています。 

    GRMN ヤリスでさらに強化

    発売から2年後、トヨタ Gazoo Racingは500台限定のGRMN ヤリスを東京オートサロンで公開しました。

    スポット溶接を560点増やし、CFRPパーツと2座化で約20 kgの軽量化を達成。「サーキットパッケージ」と「ラリーパッケージ」を用意し、予約抽選には1万件を超える応募が殺到しました。 

    大幅改良と8速AT「GR-DAT」

    2024年の改良では、エンジンを275–304 PSまで強化するとともに、8速AT「GR-DAT」を追加して幅広いドライバーがモータースポーツに参加しやすい体制を整えました。

    コクピットは15°ドライバー向きに再設計され、前後バンパーは交換しやすいモジュール式に変更されています。これらは「より多くの人に走る喜びを届けたい」というMorizo氏の意向に基づいています。

    派生と今後の展望

    https://kuruma-dna.com/gzea14h

    GR Factoryは同じセル方式でGR カローラも生産しており、需要増に対応するため一部生産を英国バーナストン工場へ移す計画も報じられています。

    さらに、2.0 Lターボをリアミッドに搭載するなど狂気に満ちた「GRヤリス Mコンセプト」も試験走行を重ねているなど、GRヤリスから始まる新たなDNAは今後も目を離せませんね。

    まとめ

    Vitz GRMNで芽生えた挑戦心は、Morizo氏のトップダウンと斎藤氏の現場主導によってGRヤリスへ結実しました。

    その後も限定GRMNや8速ATの導入で磨きをかけ、「モータースポーツで鍛えて市販で還元する」というGAZOO Racing流ものづくりが確立されています。

    今後もGR Factoryを中心に、トヨタ「走る楽しさ」を体現するホットハッチの血統が受け継がれていくことでしょう。

    このクルマとGR Factoryを、巨大上場企業のトヨタがなぜ作れたのか。会社側の事情はコラムで書いています。

    https://kuruma-dna.com/akio-toyoda-gr-yaris