カテゴリー: Toyota

  • Vitz GRMN – NCP131【GR ヤリスの前日譚】

    Vitz GRMN – NCP131【GR ヤリスの前日譚】

    ヴィッツの話はするか迷いましたが、GRヤリスのDNAを語る上でこのクルマは必須だと思うので書きました。

    Vitz GRMNが切り開いたGRの夜明け

    2017年3月、トヨタは国内150台・欧州400台限定のVitz GRMNを発表しました。

    1.8 L 直列4気筒にスーパーチャージャーを組み合わせて212 PSを発生し、0-100 km/h加速は6秒台。

    エンジンは異例のロータスがチューニングを担当し、17インチBBS鍛造ホイールや専用ブレーキを備えた3ドア専用ボディで、小型ハッチバックの常識を大きく塗り替えました。 

    GRブランドとGAZOO Racing Companyの誕生

    Vitz GRMNの登場と同じ2017年、トヨタはモータースポーツ部門を統合してGAZOO Racing Companyを発足させ、スポーツモデルを「GR」「GR SPORT」「GRMN」の3階層に再編しました。

    ここから「レースで鍛え、市販車で還元する」開発思想が本格的に動き出します。 

    「サーキット直結」の小型ホットハッチ

    プロジェクトを率いたエンジニアたちは「排気量を上げずに欧州Bセグを圧倒する」を合言葉に、機械式LSD、専用サスペンション、強化ボディを投入しました。

    テストコースとニュルブルクリンクで繰り返した走行評価では、量産Vitzとは別物のシャープなステアリングフィールが追求され、コーナー脱出加速を重視したギア比の6速MTが選ばれています。 

    台数限定ゆえの「争奪戦」とラリー転戦

    日本では商談申込み開始からわずか数日で完売し、抽選倍率は10倍以上と報じられました。

    完売後もTOYOTA GAZOO Racingは全日本ラリー選手権へGRMN Vitz Rallyを投入し、開発データを公道で収集。

    小さなボディに高出力エンジンと機械式LSDという組み合わせが、タイトな林道でも有効であることを証明しました。 

    GRヤリスへの「渡り板」

    Vitz GRMNで得られたパワートレーンや車体剛性強化のノウハウ、そして「限定でも採算を取る少量生産のビジネススキーム」は、後のGRヤリス開発を支える土台になりました。

    GAZOO Racing Companyが掲げる「走る→壊す→直す」の耐久テスト哲学もこのモデルで磨かれ、社内に「ホモロゲ級ホットハッチを本気で作れる」という成功体験を残しました。

    まとめ

    Vitz GRMNは、カタログモデルの外側に“本気のホットハッチ”を用意できることを示し、GRブランド黎明期を象徴する一台となります。

    その小型・高出力・限定生産というパッケージは、2020年のGRヤリスへと確かに継承され、トヨタのモータースポーツ起点のクルマづくりを今日まで牽引し続けています。

  • GRヤリス – GXPA16【トヨタの本気】

    GRヤリス – GXPA16【トヨタの本気】

    このクルマ、実はトヨタの多方面からのDNAを受け継いでいて、

    まずは直系とも言えるVitz系のコンパクトカーのDNAです。特にVits GRMNはGRヤリスの起源と言っても過言ではありません。

    次にWRCホモロゲーションモデルのDNA。セリカ GT-Fourを最後にトヨタはWRCホモロゲモデルを出していませんでしたが、ここにきて約「35年越し」に復活したラリー4WDの血筋も引いているのです。

    …と二つあるのですが、今回は直系であるVitzから続くDNAを中心としてみていきます。(セリカまで含めるととんでもない文量になってしまうので…)

    GRヤリスの起源「Vitz GRMN」

    2017年に150台限定で発売されたVitz GRMNは、1.8 Lスーパーチャージャーエンジンと6速MTを組み合わせた小型高性能モデルでした。

    台数こそわずかでしたが、「もっと過激なホットハッチを市販化できる」という社内の自信を育て、後のGRヤリス計画に直結する重要な一歩となります。

    社長勅令で始動したホモロゲーション計画

    トヨタ社長兼マスタードライバーの豊田章男(Morizo)氏は、「WRCで勝てる市販車をつくる」という明確な目標を掲げ、開発部門を束ねるGAZOO Racing Companyにプロジェクトを指示しました。

    開発責任者にはWRC現場出身の斎藤直彦氏が就任し、「走る→壊す→直す」を徹底する耐久テストを主導し、開発サイクルを確立していきます。

    この鍛えの哲学が、後にGRヤリスを生み出す原動力になります。 

    モトマチ「GR Factory」誕生

    GRヤリスについては他の車種とは違い、異例中の異例で量産体制の革新が行われました。ここからもGR ヤリスに対するトヨタの本気度が伺えますね。

    2020年、愛知・元町工場の一角にGR Factoryが新設されます。コンベヤを使わず、セルごとに車体がAGVで運ばれる方式を採用し、熟練工が手作業に近い精度で溶接・組付けを行います。

    余談ですが、低ボリュームでも高剛性と高精度を両立できるこのラインは、現在ではGRヤリスとGRカローラを同時に生産するようになりました。 

    初代GR Yarisの登場

    こうして誕生したGRヤリス(GXPA16)は、前半分にGA-B、後半分にGA-Cを組み合わせた3ドア専用ボディを採用し、1.6 L直列3気筒ターボエンジン(G16E-GTS:272 PS/370 Nm)と前後可変配分4WDシステムである「GR-FOUR」を搭載しました。

    アルミパネルやCFRPルーフで車重を1,280 kgに抑え、量産車では異例の「ホモロゲーション専用シャシー」を実現しています。 

    GRMN ヤリスでさらに強化

    発売から2年後、トヨタ Gazoo Racingは500台限定のGRMN ヤリスを東京オートサロンで公開しました。

    スポット溶接を560点増やし、CFRPパーツと2座化で約20 kgの軽量化を達成。「サーキットパッケージ」と「ラリーパッケージ」を用意し、予約抽選には1万件を超える応募が殺到しました。 

    大幅改良と8速AT「GR-DAT」

    2024年の改良では、エンジンを275–304 PSまで強化するとともに、8速AT「GR-DAT」を追加して幅広いドライバーがモータースポーツに参加しやすい体制を整えました。

    コクピットは15°ドライバー向きに再設計され、前後バンパーは交換しやすいモジュール式に変更されています。これらは「より多くの人に走る喜びを届けたい」というMorizo氏の意向に基づいています。

    派生と今後の展望

    GR Factoryは同じセル方式でGR カローラも生産しており、需要増に対応するため一部生産を英国バーナストン工場へ移す計画も報じられています。

    さらに、2.0 Lターボをリアミッドに搭載するなど狂気に満ちた「GRヤリス Mコンセプト」も試験走行を重ねているなど、GRヤリスから始まる新たなDNAは今後も目を離せませんね。

    まとめ

    Vitz GRMNで芽生えた挑戦心は、Morizo氏のトップダウンと斎藤氏の現場主導によってGRヤリスへ結実しました。

    その後も限定GRMNや8速ATの導入で磨きをかけ、「モータースポーツで鍛えて市販で還元する」というGAZOO Racing流ものづくりが確立されています。

    今後もGR Factoryを中心に、トヨタ「走る楽しさ」を体現するホットハッチの血統が受け継がれていくことでしょう。