カテゴリー: トゥインゴ

  • トゥインゴ GT – AHH4B1【リアエンジンの小さな暴れん坊】

    トゥインゴ GT – AHH4B1【リアエンジンの小さな暴れん坊】

    リアにエンジンを積んだ量産コンパクトカーというだけでも珍しいのに、そこにターボを載せてスポーツグレードに仕立てる。

    冷静に考えると、かなり変なことをやっています。

    ルノー・トゥインゴ GT(AHH4B1)は、これだけである程度説明できてしまいます。

    RRという選択が生んだ異端児

    2016年に登場したトゥインゴ GTは、第3世代トゥインゴ(2014年〜)をベースにしたスポーツグレードです。第3世代トゥインゴ最大の特徴は、RRレイアウトを採用したこと。リアにエンジンを置き、後輪を駆動する。ポルシェ911やフィアット500の初代を除けば、現代の量産車でこの方式を選ぶメーカーはほぼありません。

    なぜRRだったのか。これはスマート・フォーフォーとプラットフォームを共有するという、ルノーとダイムラーの提携関係から来ています。スマートがリアエンジンのフォーツーで培った構造を4人乗りに拡大し、それをルノーがトゥインゴとして仕立て直した。つまりRRは理念というより、アライアンスの産物です。

    ただ、結果的にこのレイアウトがトゥインゴに独特のキャラクターを与えました。フロントにエンジンがないぶんハンドルの切れ角が大きく取れ、最小回転半径は4.3m。街中での身のこなしは軽自動車並みです。この素性の良さが、GTというスポーツグレードの土台になっています。

    0.9リッターターボで109馬力という割り切り

    トゥインゴ GTの心臓部は、直列3気筒0.9リッターターボエンジンです。型式でいえば、H4Bt型。最高出力109ps、最大トルク170Nm。数字だけ見れば大したことないように思えるかもしれません。

    しかし車両重量が約1,010〜1,030kgしかないことを考えると、話が変わります。パワーウェイトレシオで見れば、日常域で十分に「速い」と感じられる水準です。しかもトルクの出方が3気筒ターボらしくフラットで、低回転から力が出る。街乗りでも高速でも、排気量の小ささを意識させない設計になっています。

    トランスミッションは5速MTのみ。ATやDCTの設定はありません。この割り切りが、トゥインゴ GTの性格をはっきりさせています。自分で操る楽しさを前提にしたクルマであり、便利さや万能さは求めていない。そういう意思表示です。

    ルノー・スポールの手が入った足まわり

    GTの名を冠するからには、エンジンだけでは足りません。トゥインゴ GTは足まわりにも手が入っています。専用チューニングされたサスペンション、強化されたスタビライザー、そして17インチのアルミホイール。標準のトゥインゴとは明確に走りの質が違います。

    ここで効いてくるのが、やはりRRレイアウトです。エンジンという重量物がリアにあるため、後輪のトラクションが自然にかかる。フロントが軽いぶんノーズの入りが鋭く、コーナーでの回頭性が高い。一方で、リアが重いことによる独特の挙動もあり、限界域ではドライバーの技量が問われる場面もあります。

    この味付けにはルノー・スポールが関わっています。メガーヌRSやクリオRSで知られるルノーのスポーツ部門が、小さなトゥインゴにも本気でチューニングを施した。その事実が、このクルマの立ち位置を物語っています。単なる「ちょっと速い廉価グレード」ではなく、走りの哲学を持ったモデルだということです。

    日本市場での存在感

    日本にはルノー・ジャポンを通じて正規輸入されました。

    価格帯はおよそ200万円台半ば。輸入車のスポーツグレードとしては現実的な価格です。同時期の国産ホットハッチ、たとえばスイフトスポーツ(ZC33S)が170万円前後だったことを考えると、やや高いものの、RRレイアウトという唯一無二の個性に対する対価としては納得できる範囲でしょう。

    ただし、日本での販売台数は決して多くありません。そもそもトゥインゴ自体がニッチなモデルであり、さらにMT限定のGTとなれば、ターゲットはかなり絞られます。それでもルノーがこのグレードを日本に持ち込んだのは、ブランドイメージの核として「走りのルノー」を訴求したかったからでしょう。

    実際、自動車メディアやエンスージアストからの評価は高いものでした。「現代に蘇ったリアエンジンのホットハッチ」という物語性は強烈で、数字では測れない魅力がこのクルマにはあります。

    なぜトゥインゴGTは特別なのか

    トゥインゴ GTを語るうえで避けられないのは、このクルマが「最後のRRホットハッチ」になる可能性が高いという事実です。第3世代トゥインゴは2024年頃に生産を終了し、後継モデルはEVへの移行が示唆されています。内燃機関をリアに積んでMTで走らせるという体験は、もう新車では手に入らなくなるかもしれません。

    もちろん、トゥインゴ GTは万能なクルマではありません。後席は狭く、荷室も限られ、高速域の直進安定性はフロントエンジン車に譲ります。3気筒エンジンの振動やサウンドも、好みが分かれるところです。

    それでも、このクルマには明確な「意志」があります。小さく、軽く、シンプルに、自分の手で走らせることの楽しさを凝縮する。その意志がRRレイアウトという構造的な個性と結びついたとき、他のどのホットハッチとも違う体験が生まれた。それがトゥインゴ GTという存在です。

    系譜として見れば、初代トゥインゴが持っていた「フランスの知恵と遊び心で作る小さなクルマ」という思想の、ひとつの到達点といえるかもしれません。

    RRという構造上の制約を逆手に取り、走る楽しさに変換してみせた。

    量産車としてはかなり異例のアプローチであり、だからこそ記憶に残るクルマになっています。

  • トゥインゴ ルノー・スポール – NK4M【小さなRSバッジの意味】

    トゥインゴ ルノー・スポール – NK4M【小さなRSバッジの意味】

    ルノー・スポール(以下RS)と聞くと、メガーヌRSやルーテシアRSのような、ニュルブルクリンクのタイムを塗り替えるような猛々しいマシンを思い浮かべる人が多いかもしれません。

    でも、RSのバッジが貼られた車のなかには、もっと小さくて、もっと軽くて、もっと「日常の延長線上で楽しい」ことを狙ったモデルもあります。

    それが、2代目トゥインゴに設定されたトゥインゴ ルノー・スポールです。

    なぜトゥインゴにRSが必要だったのか

    2代目トゥインゴ(2007年登場)は、初代のあの愛嬌ある丸目デザインから一転、やや大人びたコンパクトカーとして生まれ変わりました。

    プラットフォームは日産・ルノーアライアンスのBプラットフォームを採用し、初代の独自色からは少し離れた、合理的な小型車です。

    ただ、ルノーにはAセグメント(最小クラス)のホットモデルを作ってきた歴史があります。

    初代トゥインゴにも後期にはスポーティグレードが存在しましたし、さらに遡ればルノー5(サンク)ターボという伝説もある。

    「小さい車を本気で速くする」のは、ルノーのお家芸のひとつなんです。

    2008年に登場したトゥインゴRSは、まさにその系譜に連なるモデルでした。ただし、ターボで武装するのではなく、自然吸気の1.6Lエンジンで勝負するという選択をしています。

    ここにこの車の性格がはっきり出ています。

    NK4Mエンジンという選択の意味

    搭載されたK4M型エンジンは、ルノーが幅広い車種に使ってきた1.6L直列4気筒DOHC16バルブの自然吸気ユニットです。トゥインゴRS向けにはチューニングが施され、最高出力は133馬力(98kW)、最大トルクは160Nmを発生します。

    正直に言えば、この数字だけ見ると地味です。同時代のライバル、たとえばフィアット・アバルト500は1.4Lターボで135馬力。ミニ・クーパーSに至っては175馬力。数値の上では、トゥインゴRSは見劣りします。

    しかし、ルノー・スポールがあえて自然吸気を選んだのには理由があります。K4Mは高回転域まで淀みなく回るフィーリングが持ち味で、ターボラグのない素直なレスポンスが身上です。つまり、速さの絶対値ではなく、ドライバーとの対話の質で勝負しようとした。これはRSというブランドの中でも、かなり明確な思想の表明です。

    組み合わせるトランスミッションは5速MTのみ。ATやセミATの設定はありません。この割り切りも、この車がどういう人に向けて作られたかを雄弁に語っています。

    シャシーに宿るRSの本気

    トゥインゴRSの真価は、エンジンよりもむしろ足回りにあります。ルノー・スポールのエンジニアが手がけたサスペンションは、標準車から大幅にリセッティングされました。スプリングレートの引き上げ、専用ダンパー、スタビライザーの強化。車高も標準車比で約20mm〜30mm下げられています。

    ステアリングはクイックレシオ化され、少ない舵角でノーズがスッと向きを変える。車両重量は約1,090kg前後と、このクラスとしては特別軽いわけではありませんが、ホイールベースが短いぶんだけ回頭性は鋭い。ワインディングでは、数字以上に「速く走れている」感覚が得られる車でした。

    ブレーキもフロントにベンチレーテッドディスクを奢り、制動力にも手を抜いていません。要するに、パワーで押すのではなく、シャシーの完成度で走りの質を担保するというアプローチです。これは歴代のクリオRSにも通じるルノー・スポールの基本姿勢そのものです。

    小さなRSが背負った役割

    当時のルノー・スポールのラインナップを見ると、頂点にはメガーヌRS、中核にはクリオRSがいました。

    トゥインゴRSは、その下に位置するエントリーモデルという立ち位置です。

    ただ、「エントリー」という言葉から受ける印象ほど、この車は妥協していません。むしろ、RSの哲学を最小限のパッケージに凝縮したモデルと言ったほうが正確です。価格は抑えめ、維持費も現実的、それでいてRSの名に恥じない足回りのセットアップが与えられている。

    欧州では「若いドライバーが最初に手にするRSバッジ」として、一定の支持を集めました。日本への正規導入はありませんでしたが、並行輸入で手に入れた人も少なくありません。小さくて、安くて、でもちゃんと楽しい。そういう車を求める層は、日本にも確実にいたわけです。

    限定モデルが物語る愛され方

    トゥインゴRSには、いくつかの限定仕様が設定されました。「ゴルディーニ」の名を冠したモデルはその代表格です。ゴルディーニといえば、ルノーのモータースポーツ史に深く刻まれたチューナーの名前。ブルーのボディにホワイトのストライプという伝統的なカラーリングが与えられ、内外装の専用装備が追加されました。

    エンジン自体は標準のRSと同じK4M型133馬力ですが、カップシャシーと呼ばれるさらに引き締められた足回りが選べるなど、走りの方向でもきちんと差別化されていました。こうした限定モデルが複数設定されたこと自体、この車がコアなファンに愛されていた証拠です。

    系譜の中での位置づけ

    トゥインゴRSの後、3代目トゥインゴ(2014年〜)はリアエンジン・リア駆動というまったく異なるレイアウトに生まれ変わりました。スマート・フォーフォーとプラットフォームを共有するこの3代目にも「GT」グレードは設定されましたが、ルノー・スポールの名を冠したモデルは登場していません。

    つまり、トゥインゴにRSバッジが付いた時代は、この2代目の一時期だけだったということになります。FF(前輪駆動)レイアウトで、自然吸気エンジンで、5速MTで。この組み合わせ自体が、もう二度と出てこない可能性が高い。

    ルノー・スポールというブランド自体も、2023年にアルピーヌへの統合が進み、従来のような「量産車ベースのRSモデル」が今後どうなるかは不透明です。そう考えると、トゥインゴRSは「RSの裾野がいちばん広かった時代」を象徴するモデルとも言えます。

    133馬力という数字は、現代の基準では決して速くありません。でも、この車の価値はそこにはない。

    小さなボディに、ルノー・スポールの思想をきちんと注ぎ込んだこと。速さではなく楽しさを、パワーではなくバランスを優先したこと。

    それが、トゥインゴRSというモデルの存在意義です。