カテゴリー: Daihatsu

  • コペン(LA400K)の中古車ガイド【屋根の音と付き合えますか?】

    軽自動車で電動メタルトップのオープンカー。しかもFF・ターボ・5MT(またはCVT)で、トランクにゴルフバッグが入る。

    こんな車、他にありません。

    2014年に登場した2代目コペン・LA400Kは、ローブ、セロ、エクスプレイ、そしてGRスポーツと複数の顔を持ちながら、中身はすべて同じ骨格とエンジンを共有しています。

    惹かれている人は多いはずです。

    ただ、オープンカーである以上、普通の軽とは違う「気にすべきポイント」がいくつかあります。

    致命的なものは少ないけれど、知らずに買うと地味にストレスが溜まる類のものが多い。

    この記事では、そのあたりを正直に整理していきます。

    まず警戒すべきは「屋根まわり」の宿命

    LA400Kコペンの最大の個性は、約20秒で開閉する電動メタルトップです。これが最大の魅力であると同時に、中古で買うときに一番気を配るべきポイントでもあります。

    まず、走行中に頭上から聞こえるカタカタ・ミシミシという異音。これはコペンオーナーの間では非常に有名な症状です。ルーフの内装パネルと外装パネル、あるいはルーフのリンクアーム同士が走行振動で当たったり擦れたりして音を出します。走行不能にはなりませんが、静かな道を走っていると頭上でずっと鳴り続けるので、精神的にかなり気になります。

    ダイハツ側も認識しており、ルーフサイドの内装パネルにはリブ高さを改善した対策品が存在します。

    ディーラーでもスポンジ追加などの異音対策は一般的なクレーム対応として定着しているようですね。

    ただ、中古車の場合は前オーナーが対策済みかどうかで状態がまったく異なります。試乗時にルーフを閉めた状態で段差のある道を走り、頭上の音を確認するのは必須です。

    もうひとつ、ルーフをオープンにしたときにトランク内に収納される屋根を受け止めるゴム製のクッション(ルーフステークッション)が、初期モデルでは削れてしまう不具合が報告されています。部品自体は安価に交換できますが、放置すると収納時にルーフパネルを傷つける可能性があるため、トランク内のゴムの状態は確認しておきたいところです。

    年数が経つと怖い「エアコン」と「発電機」

    LA400Kコペンで修理費が大きくなりやすいのが、エアコンのコンプレッサーです。(逆に言えば高くてもこの程度)

    焼付きやガラガラという異音が出始めると、コンプレッサー本体だけでなく、霧吹きのノズルのような役割をするエキスパンションバルブや、フィルターの役割をするリキッドタンクなど関連部品もまとめて交換になるケースが多い。

    部品代・工賃・ガス充填を合わせると10万〜20万円コースになることもあります。

    特に夏場のトラブル報告が集中しており、オープンカーという性質上エアコンを酷使しがちなことも一因でしょう。中古車を見るときは、エアコンをMAXで回してみて冷えの強さ、異音の有無、コンプレッサーのクラッチの作動音をしっかり確認してください。

    もうひとつの高額修理候補がオルタネーター(発電機)です。エンジンルーム内で高温にさらされ続ける部品なので、年数が経つと発電不良を起こしやすくなります。発電が弱ると走行中にバッテリーが上がって突然エンジンが止まる、という最悪のシナリオもあり得ます。リビルト品での交換でも5万円前後は覚悟が必要です。

    どちらも「いつ壊れるか予測しにくい」タイプの故障なので、初期型(2014〜2017年式)の個体は特に注意が必要です。整備記録でこれらの交換履歴があれば、むしろ安心材料と捉えてよいでしょう。

    小さいけれど印象を悪くする不具合たち

    走行不能にはならないけれど、中古車として見たときに「うーん…」となりやすい症状がいくつかあります。

    まず、イグニッションコイルの劣化。3気筒エンジンなので、1本でも弱ると振動が目立ちやすい構造です。完全に死ぬと露骨にエンジンがガタガタ震えますが、死にかけの状態だとアイドリング中にときどき微妙な振動が出る程度で、原因の特定に手間取ることがあります。コペン専門店では「よくある不具合」として扱われている症状です。部品代は1本数千円程度ですが、3本まとめて交換するのが定石です。

    次に、ハイマウントストップランプの亀裂。2014年5月〜2017年1月製造の約19,000台を対象にリコールが出ています。温度変化でランプの溶着部に亀裂が入り、雨水が侵入して点灯しなくなるというもの。リコール対象車であれば無償交換されているはずですが、中古車の場合は対策済みかどうか確認しておくと安心です。

    そして、内装パネルのベタつき・表面剥がれ。センターコンソールまわりの樹脂パネル表面が経年で剥がれ、黒いカスが太ももに付くという報告があります。走行には無関係ですが、見た目と触感の印象は確実に悪くなります。特に初期型で目立つ症状です。

    さらに、オープンカーの宿命として雨漏りの予兆にも触れておきます。LA400Kはメタルトップなので幌車に比べれば水密性は高いのですが、ルーフまわりのウェザーストリップ(ゴムのシール材)は経年で硬化・劣化します。7〜9年目あたりから浸水が始まるケースが報告されており、特にトランクから室内への浸水は「コペンの代表的な雨漏り症例」として知られています。助手席下に水が溜まり、カーペットにカビが生えたり、フロアに錆が出たりすることもあります。

    ウェザーストリップをすべて交換すると部品代だけで約7万5千円。日頃からラバー保護剤を塗布しておくことで寿命を延ばせますが、中古車を見る際はトランク内や助手席下のカーペットを持ち上げて、水染みや錆の痕跡がないかを必ず確認してください。

    逆に、ここはかなり強い

    弱点ばかり並べてきましたが、LA400Kコペンには安心して評価できるポイントもしっかりあります。

    まず、ボディ骨格の「D-Frame」。初代コペンで指摘されていたオープンカーゆえの剛性不足を解消するために開発された新骨格構造で、フロント・サイド・リア・フロアを切れ目なく繋ぐことで、ルーフを開けた状態でもスポーツカーとして十分な剛性を確保しています。この骨格の出来の良さは、モータージャーナリストからも高く評価されています。経年で骨格がヘタるという話はほとんど聞かず、10年落ちでもボディのしっかり感が残っている個体が多いのは大きな安心材料です。

    次に、エンジン(KF-VET)の基本的な信頼性。このエンジンはタントやムーヴなどダイハツの主力車種に幅広く搭載されている量産ターボエンジンです。

    コペン専用の特殊なエンジンではないため、部品供給が豊富で整備ノウハウも広く共有されています。オイル管理さえまともにされていれば、エンジン本体が致命的に壊れるケースは少ないと言えます。

    また、クラッチの大容量化も見逃せません。KF型エンジンでは1,300ccクラスのK3-VEと共用化されたクラッチが採用されており、軽自動車としてはかなり余裕のある設計です。MT車でもクラッチが極端に早く減るという話は目立ちません。

    電動ルーフの開閉機構自体も、トラブルが起きやすいのはゴムシール類であって、油圧ポンプやリンク機構といったメカ部分は比較的丈夫です。ルーフの動作不良が出る場合も、多くはトランクリッドのスイッチや建付け調整で解決するケースが報告されています。

    現車確認で見るべきポイント

    LA400Kコペンの中古車を実際に見に行くとき、最低限チェックしたいポイントを整理しておきます。

    まず、オイルフィラーキャップの裏側。キャップを外して裏を見たとき、ドロドロのヘドロ状スラッジが付着していたら、オイル管理が杜撰だった可能性が高い。ターボ車でこの状態は、エンジン焼付きやタービン故障のリスクを抱えています。逆にキャップ裏がきれいなら、前オーナーがちゃんと面倒を見ていた証拠になります。

    次に、エアコンの冷え。エンジンをかけてエアコンを全開にし、しっかり冷風が出るか、コンプレッサーから異音がしないかを確認。夏場に壊れやすい部品なので、季節を問わず必ずチェックしてください。

    ルーフの開閉動作も必ず実演してもらいましょう。途中で止まらないか、異音がしないか、閉めた後にガタつきがないか。閉めた状態で段差を走って頭上の音も確認。トランク内のルーフステークッションの削れ具合も見ておくとよいです。

    助手席下とトランク内の水染み・錆。カーペットをめくれるなら持ち上げて、フロアに水の痕跡がないか確認。トランク内も同様です。カビ臭がする個体は要注意です。

    最後に、カスタム車両の場合は純正部品の有無。LA400Kコペンはカスタムされた中古車が多く流通していますが、車検非対応のマフラーやヘッドライト加工がされていて、かつ純正部品が残っていない場合は後々苦労します。

    これらを新品で揃えると得てして高額になりがちです。

    結局、コペンLA400Kは買いなのか

    結論から言います。オープンカーをカジュアルに楽しみたい方、とても買いです。

    軽自動車で電動メタルトップのオープンカーという存在は、LA400Kコペン以外にありません。ライバルだったS660はすでに生産終了し、中古価格が高騰しています。コペンも2026年8月での生産終了が発表されており、今後さらに希少性が増していく可能性があります。

    エンジンは量産ターボで部品供給に不安がなく、ボディ骨格は初代から大幅に進化しています。致命的な持病と呼べるほどの弱点はなく、注意すべきポイントはルーフ異音、エアコン、雨漏り予兆、外装部品の入手難といった「管理とメンテナンスで対処できる範囲」のものがほとんどです。

    この車に手を出してよい人は、「屋根のカタカタ音を対策する気がある」「オープンカーのゴムシール類は消耗品だと割り切れる」「整備記録がしっかり残った個体を選べる」人です。GRスポーツやSグレードのビルシュタイン装着車は足まわりの満足度も高く、長く楽しめるでしょう。

    逆にやめた方がよいのは、「買ったらノーメンテで乗りたい」「異音や小さな不具合が許せない」という人。

    オープンカーである以上、普通の軽自動車よりは手がかかります。それを「面倒」と感じるか「愛着」と感じるかで、この車との付き合い方はまったく変わります。

    屋根を開けて走る気持ちよさは、スペックシートには載りません。

    でも、それこそがこの車の存在意義です。

    弱点を知ったうえで「それでも欲しい」と思えたなら、LA400Kコペンはあなたの期待を裏切らない大事なお友達になるはずです。

  • コペン – L880K【軽で本気のオープンを成立させた異端児】

    コペン – L880K【軽で本気のオープンを成立させた異端児】

    軽自動車でオープンカーをつくる。しかも電動ハードトップで。2002年当時、この企画書を見た人の多くは「正気か?」と思ったはずです。

    ところがダイハツは本当にやってしまいました。

    初代コペン、型式L880K。

    軽の枠に収まりきらない密度と、軽だからこそ成立した気軽さ。この矛盾した二面性こそが、コペンという車の核心です。

    なぜダイハツがスポーツカーを作ったのか

    まず前提として、ダイハツは「軽の実用車メーカー」というイメージが強い会社です。ムーヴやミラで台数を稼ぎ、堅実に商売をしてきた。スポーツカーなんて似合わない、と言われても仕方がない立ち位置でした。

    ただ、ダイハツにはもうひとつの顔がありました。コンパニオンやP-5といった小型スポーツの系譜、そして1990年代末のモーターショーで提案し続けたコンセプトカーの数々。小さな車で走りの楽しさを追求するDNAは、表に出にくかっただけで消えてはいなかったんです。

    1999年の東京モーターショーに出品されたコンセプトモデル「KOPEN」が、想定以上の反響を呼びます。来場者アンケートでも高い支持を集め、「これは市販できるかもしれない」という空気が社内に生まれました。

    当時の軽自動車市場は、背の高いワゴン系が主流になりつつある時期です。スズキのワゴンRが切り開いた「軽=室内の広さ」という価値観が定着しはじめていた。そんな中で、2シーターのオープンスポーツを出すのは完全に逆張りです。でも、だからこそ話題になる。ダイハツのブランドイメージを変える一手として、コペンは企画を通されました。

    電動ハードトップという執念

    コペンの最大の特徴は、なんといってもアクティブトップと呼ばれる電動開閉式ハードトップです。ボタンひとつで約20秒、ルーフがトランク内に格納される。これを軽自動車でやったのは、世界初でした。

    なぜソフトトップ(幌)ではなくハードトップだったのか。開発陣の意図は明確で、「日常使いできるオープンカー」を目指していたからです。幌だと雨漏りや防音の問題がつきまとう。遊びの車ではなく、毎日乗れるオープンにするには、金属ルーフが必要だったわけです。

    ただ、軽規格の全長3.4m以下という枠の中に電動開閉機構を押し込むのは、相当な苦労だったようです。ルーフを格納するとトランクはほぼ使えなくなる。この割り切りがなければ、成立しなかった設計です。つまり「何を諦めるか」を決めたことで、コペンは完成したとも言えます。

    660ccターボで何ができたか

    エンジンは直列4気筒DOHCターボのJB-DET型。排気量659ccから64馬力を絞り出します。これは軽自動車の自主規制上限いっぱいの数値で、最大トルクは11.2kgf·mを3200rpmで発生しました。

    車両重量は約830kg。軽自動車としては決して軽くはありませんが、絶対的な重さで見れば十分に軽い。64馬力でも、830kgのボディなら街中では不足を感じにくい。高速の合流で少し頑張る必要がある程度で、日常域のパワー感は悪くありませんでした。

    駆動方式はFF。ここは好みが分かれるところです。スポーツカーならFRだろう、という声は当時からありました。ただ、軽の枠でFRレイアウトを組むとコストもスペースも跳ね上がる。FFにすることで室内空間と価格を現実的な線に収めた、という判断です。

    足回りはフロントがマクファーソンストラット、リアがトーションビーム。凝った形式ではありませんが、ホイールベースが2230mmと短いおかげで、回頭性は軽快そのものでした。ワインディングをちょっと飛ばすだけで、車との対話が成立する。速さではなく楽しさの密度で勝負する車だったんです。

    12年間売り続けた意味

    L880Kコペンは2002年に発売され、2012年まで販売が続きました。実に10年以上のロングセラーです。途中でフルモデルチェンジはなく、細かな改良を重ねながら同じ基本設計で走り続けた。

    これは裏を返せば、後継モデルの開発がなかなか進まなかったということでもあります。ダイハツの経営資源は限られていて、台数が出る実用車の開発が常に優先される。コペンのような趣味性の高い車に大きな投資を回す余裕は、そう簡単には生まれませんでした。

    それでも生産が打ち切られなかったのは、固定ファンが途切れなかったからです。月販数百台という規模ではあっても、指名買いで売れ続ける車は、メーカーにとってブランド資産になる。コペンは「ダイハツにもこういう車がある」という看板であり続けました。

    2002年の発売当初の価格は約150万円前後。軽自動車としては高価ですが、電動ハードトップのオープンカーとしては破格でした。同時期の普通車オープン、たとえばマツダ・ロードスター(NB型)が200万円台だったことを考えると、コペンの価格設定がいかに戦略的だったかがわかります。

    競合不在という特殊な立ち位置

    L880Kが面白いのは、直接の競合車がほとんど存在しなかったことです。同時代の軽オープンスポーツといえば、ホンダ・ビート(1991〜1996年)やスズキ・カプチーノ(1991〜1998年)が思い浮かびますが、どちらもコペン登場時にはすでに生産終了していました。

    つまりコペンは、ABCトリオ(オートザム AZ-1、ビート、カプチーノ)が去った後の軽スポーツ市場に、ほぼ単独で存在していたことになります。ホンダのS660が登場するのは2015年。コペンは十数年にわたって「新車で買える軽オープンスポーツ」という唯一の選択肢でした。

    この「競合不在」は、ロングセラーを支えた要因のひとつでもあります。欲しい人にとって、代わりがない。だから値崩れもしにくく、中古市場でも根強い人気を保ち続けました。

    初代が残したもの

    2014年、コペンは2代目(LA400K)へとフルモデルチェンジします。新型は着せ替え可能な外板パネル「ドレスフォーメーション」という新機軸を打ち出し、話題になりました。ただ、2代目の存在が初代の価値を薄めたかというと、むしろ逆です。

    L880Kは今でも中古市場で高い人気を誇ります。丸みを帯びたデザイン、コンパクトに凝縮されたボディ、そして「最初のコペン」であるという事実。2代目とは明確にキャラクターが異なるため、初代を選ぶ理由がちゃんと残っているんです。

    初代コペンが証明したのは、軽自動車でも「欲しい」と思わせる趣味の車が成立するということでした。実用性や燃費だけが軽の価値ではない。小さいからこそ楽しい、安いからこそ気軽に遊べる。その提案は、後のS660にも、そして2代目コペンにも確実に受け継がれています。

    L880Kは、軽自動車の可能性を広げた一台です。無謀に見えた企画を形にし、10年以上にわたって市場に居場所を確保し続けた。派手な戦績こそありませんが、「小さな車で人を笑顔にする」というダイハツの原点を、もっとも純粋に体現したモデルだったのではないでしょうか。

  • コペン GR SPORT – LA400A【トヨタの手が入った軽オープンの異色モデル】

    コペン GR SPORT – LA400A【トヨタの手が入った軽オープンの異色モデル】

    軽自動車のオープンスポーツに、トヨタのスポーツブランドが手を入れる。冷静に考えると、かなり不思議な話です。

    コペン GR SPORTは、ダイハツの2代目コペン(LA400K/LA400A)をベースに、GAZOO Racingの知見で走りを仕立て直したモデル。

    2019年に登場したこの車は、単なるエンブレム替えではなく、「軽規格の中でどこまで走りの質を上げられるか」という実験的な問いに対する、ひとつの回答でした。

    なぜコペンにGRが必要だったのか

    そもそもコペンは、ダイハツが独自に企画・開発した軽オープンスポーツです。

    2002年の初代(L880K)で確立した「電動開閉式ルーフを持つ軽2シーター」というコンセプトは、2014年登場の2代目(LA400K)にも受け継がれました。

    660ccターボにCVT、あるいは5速MT。十分に楽しい車として市場には受け入れられていました。

    ただ、2代目コペンには構造上のある特徴がありました。「D-Frame」と呼ばれる骨格構造と、外板パネルを着せ替えできる「DRESS-FORMATION」という仕組みです。

    ボディ外板を樹脂化し、骨格とは別に交換できるようにした。これは商品企画としては画期的でしたが、走りの面では剛性確保にかなりの工夫が必要でした。

    つまり、コペンの2代目は「着せ替えの自由度」と「オープンボディの剛性」という、相反する要素を両立させなければならなかった。その中で走りの質をさらに上げるには、車体側の補強やサスペンションチューニングに相当な作り込みが要る。

    ここに、GAZOO Racingが入り込む余地があったわけです。

    トヨタとダイハツの共同開発という構図

    コペン GR SPORTの開発は、トヨタのGAZOO Racing Companyとダイハツの共同作業として進められました。

    型式はLA400Aとなり、ベースのLA400Kとは区別されています。これは単なるグレード追加ではなく、型式が変わるレベルの変更が入ったことを意味します。

    具体的に何が変わったのか。まずボディ補強です。フロントにブレースを追加し、車体のねじり剛性を高めています。オープンカーにとって剛性は走りの根幹に関わる部分で、ここを触ることで操舵応答やリアの追従性が変わります。さらに専用チューニングのサスペンション、MOMO製の本革ステアリング、BBS製の鍛造アルミホイールといった装備が奢られました。

    注目すべきは、これらの変更が「見た目の豪華さ」ではなく「走りの基本骨格」に集中していた点です。GRの名を冠するモデルとして、エアロパーツを派手に盛るのではなく、ボディとサスという根本を詰めにいった。このアプローチは、GR SPORTというグレードの性格をよく表しています。

    GR SPORTの立ち位置を理解する

    トヨタのGRシリーズには、段階があります。市販車に近い「GR SPORT」、本格的にスポーツ走行を想定した「GR」、そしてさらにその上の「GRMN」。コペンに与えられたのはGR SPORTで、これは「日常使いの延長線上で走りの質を高める」というポジションです。

    ここが面白いところで、コペンというベース車自体がすでにスポーツカーの文脈にある車なんです。つまりスポーツカーに対してさらにスポーツグレードを設定するという、ちょっと入れ子構造のような状態になっている。

    普通のコペンでも十分に楽しいのに、そこからさらに何を足すのか。その答えが「剛性と足回りの質」だったのは、ある意味で正解だったと思います。

    派手なパワーアップはありません。エンジンは同じKF型660ccターボで、64馬力の軽自動車自主規制枠はそのまま。CVTと5速MTの選択肢も変わりません。

    変わったのは、同じパワーをどう路面に伝えるか、ドライバーにどう伝えるか、という部分です。

    走りの変化はどこに出たか

    実際にGR SPORTに乗ると、まず感じるのはステアリングの手応えの変化です。ベースモデルと比べて、操舵初期の曖昧さが減っている。

    これはボディ剛性の向上が直接的に効いている部分で、ステアリングを切った瞬間に車体がたわむ量が減ることで、タイヤの動きがより正確にドライバーに返ってくるようになります。

    足回りも硬くなっていますが、単純にバネレートを上げただけではなく、減衰力のセッティングも見直されています。

    結果として、路面の凹凸を拾いはするものの、不快な突き上げにはなりにくい。軽自動車の短いホイールベースでこのバランスを出すのは、かなり手間がかかる作業です。

    BBS鍛造ホイールの採用も、見た目だけの話ではありません。バネ下重量の軽減は、軽自動車のような軽い車体ではとくに効果が大きい。車重が自分自身で800kg台後半という世界ですから、ホイール1本あたり数百グラムの差が、乗り味に出てきます。

    軽スポーツにGRを載せる意味

    ここで少し引いた目で見てみます。トヨタがGRブランドを軽自動車に展開した意味は何だったのか。

    ひとつは、GRブランドの裾野を広げるという商品戦略です。86やスープラだけでは届かない層に、GRの世界観を体験してもらう。価格帯としても200万円台前半からという設定は、スポーツカーとしては現実的なラインです。

    もうひとつは、ダイハツとトヨタの関係性の中での意味です。2016年にダイハツはトヨタの完全子会社になっています。コペン GR SPORTは、その関係が具体的なプロダクトとして形になった初期の事例のひとつでした。ダイハツの軽自動車づくりのノウハウと、トヨタのスポーツ開発の知見を掛け合わせるという実験。その成果が、このLA400Aに詰まっています。

    ただ、課題がなかったわけではありません。CVTモデルでは、せっかくの足回りの良さをトランスミッションのダイレクト感の薄さが打ち消してしまう場面もありました。MTを選べばかなり楽しいけれど、CVTだとGR SPORTの真価が伝わりにくい。この点は、軽自動車の市場特性——AT比率が圧倒的に高い——との兼ね合いで、難しい判断だったはずです。

    コペンの系譜が示すもの

    初代コペンは「ダイハツが本気で作った軽オープン」でした。2代目は「着せ替えという新しい価値提案」を加えた。

    そしてGR SPORTは「トヨタとの協業で走りの質を一段上げた」モデルです。系譜として見ると、コペンは世代ごとに異なるテーマを背負ってきたことがわかります。

    2024年にはダイハツの認証不正問題の影響でコペンの生産が一時停止するなど、この車種の将来は不透明な部分もあります。ただ、GR SPORTという形で「軽自動車でもここまでできる」と示したことの意味は小さくありません。

    コペン GR SPORTは、軽自動車という制約の中で走りの質を追求するとどうなるか、という問いに対する真面目な回答でした。派手さはないけれど、触れば違いがわかる。

    そういう車が、軽規格の中にちゃんと存在していたこと自体が、日本の自動車文化のひとつの豊かさを表しています。

  • コペン – LA400K【着せ替えという発明が問うた、軽スポーツの新しい形】

    コペン – LA400K【着せ替えという発明が問うた、軽スポーツの新しい形】

    軽自動車のオープンスポーツカーに、いったい何種類の顔が必要なのか。

    普通に考えれば、答えは「1つで十分」でしょう。

    けれど2代目コペン・LA400Kは、最終的に4つの異なる外装バリエーションを持つクルマになりました。

    しかもそれは単なるグレード違いではなく、ユーザーが後から着せ替えられるという、ちょっと信じがたい構造の上に成り立っています。

    なぜダイハツはそんな回りくどいことをしたのか。

    そこには、初代の成功と限界、そして軽スポーツという市場の厳しい現実がありました。

    初代が残した宿題

    初代コペン・L880Kは2002年に登場し、軽自動車の電動オープンカーという唯一無二のポジションを築きました。

    660ccの直4ターボに電動ルーフ、丸みを帯びた愛嬌のあるデザイン。趣味性の高いクルマとして一定のファンを獲得し、2012年まで実に10年間も生産が続いています。

    ただ、10年というロングセラーの裏側には、後継を出しにくいという事情もありました。

    初代は開発陣の情熱で実現した、いわば「通してもらえた企画」です。台数が爆発的に売れるジャンルではない以上、次をやるなら相応の理屈が必要でした。

    加えて、初代のオーナー層には「このデザインだから買った」という人が多かった。

    2代目でデザインを変えれば初代ファンが離れるかもしれないし、変えなければ新しい客が来ない。スポーツカーの世代交代で必ずぶつかるこの問題に、ダイハツは正面からではなく、構造そのもので答えを出そうとしました。

    D-Frameという構造的な解

    LA400Kの核心は、D-Frame(ディーフレーム)と呼ばれる骨格構造にあります。これは簡単に言えば、クルマの骨格と外板パネルを分離した設計思想です。

    強固な内板骨格がボディ剛性や安全性を担い、外板の樹脂パネルは「着せ替え可能な外装」として機能します。

    この構造を採用した理由は、単に遊び心だけではありません。ダイハツが「ドレスフォーメーション」と名付けたこの仕組みには、いくつかの合理的な狙いがありました。

    まず、1車種で複数のデザインを展開できること。

    軽スポーツのようなニッチ市場で、デザイン違いのために別の車種を起こすのは採算的に無理があります。しかし外板だけを変えられるなら、プラットフォームは1つで済む。

    開発コストを抑えながら、異なる好みの顧客にリーチできるわけです。

    もうひとつは、購入後にオーナーが外装を変えられるという体験価値。

    クルマは買ったら基本的にそのままですが、コペンは外板パネル13枚をディーラーで交換できる設計になっています。

    飽きたら着せ替える。これはクルマの所有体験としてはかなり異質で、ダイハツとしても新しい提案でした。

    4つの顔が意味するもの

    LA400Kは2014年6月、まず「Robe(ローブ)」として発売されました。流麗で丸みのあるデザインで、初代の空気感を少し引き継ぎつつモダンに仕上げたモデルです。

    同年11月には「XPLAY(エクスプレイ)」が追加されます。こちらはSUVテイストを取り入れた、やや無骨な顔つき。同じ車台から、まったく違う印象のクルマが出てくるという体験を、ダイハツは早い段階で見せにきました。

    そして2015年6月に登場したのが「Cero(セロ)」です。丸目ヘッドライトを採用し、初代コペンを思わせるクラシカルな表情を持つこのモデルは、初代ファンの受け皿として明確に企画されています。

    実際、セロの登場で販売は上向いたと言われており、着せ替え構造が商品戦略として機能した好例と言えます。

    さらに2019年には、トヨタとの協業で生まれた「GR SPORT」が加わりました。

    TOYOTA GAZOO Racingの手が入った専用チューニングが施され、足回りやボディ補強が強化されています。

    これは着せ替えの文脈というより、トヨタとの資本関係を活かした展開ですが、

    D-Frameという構造があったからこそ、外装の差別化を含めたバリエーション展開がスムーズだったのは間違いありません。

    走りの中身はどうだったのか

    エンジンは初代の直4から、KF型の直列3気筒ターボに変わりました。

    排気量は同じ660ccですが、3気筒化によって軽量・コンパクトになり、低回転域のトルクも改善されています。最高出力64馬力は軽自動車の自主規制枠いっぱいで、ここは初代と同じです。

    トランスミッションは5速MTとCVTの2本立て。CVTにはステアリングシフト用のパドルが付き、7速マニュアルモードが使えます。MTを残したのは、このクルマの顧客にとってそれが必須だったからです。実際、コペンの購入者におけるMT比率はかなり高い水準を維持していました。

    シャシーはダイハツの軽用プラットフォームをベースにしつつ、オープンボディに必要な剛性を確保するため、フロアやサイドシルを大幅に強化しています。電動ルーフは初代から引き続き採用され、約20秒で開閉が完了します。トランクにルーフを格納する構造も踏襲されており、屋根を開けると荷室はほぼ使えなくなる。ここは割り切りですが、コペンを買う人はそれを承知の上です。

    車重は約870kg。軽自動車としては重い部類ですが、オープンボディで電動ルーフを積んでこの数字なら、十分に頑張っていると言えます。初代の約830kgからは増えていますが、衝突安全基準の厳格化を考えれば妥当な範囲でしょう。

    着せ替えは受け入れられたのか

    正直に言えば、「実際に着せ替えた」オーナーはそこまで多くなかったようです。

    パネル一式の交換費用はそれなりにかかりますし、わざわざ外装を変えるという行為自体、多くのユーザーにとってはハードルが高い。ドレスフォーメーションは話題性としては抜群でしたが、実用面での普及率は限定的だったと見るのが妥当です。

    ただ、この構造が無意味だったかというと、そうではありません。

    着せ替えの仕組みがあったからこそ、ローブ、エクスプレイ、セロ、GR SPORTという4つのバリエーションを1つのプラットフォームから展開できた。

    個々のオーナーが着せ替えるかどうかより、メーカー側が商品ラインを柔軟に広げられたという点に、D-Frameの本当の価値があったのかもしれません。

    また、外板が樹脂パネルであることは、軽微なぶつけに対する修理コストの低減にも寄与しています。日常的に使う軽自動車としては、地味に嬉しいポイントです。

    軽スポーツを続けるための発明

    LA400Kを振り返ると、このクルマは「軽スポーツをどうやって存続させるか」という問いに対するダイハツなりの回答だったことがわかります。

    台数が出ないジャンルで、開発費を回収し、複数の顧客層にリーチし、長く売り続ける。そのために編み出されたのがD-Frameとドレスフォーメーションでした。

    結果として、LA400Kは2014年の発売から2024年に至るまで、10年にわたって販売が続きました。

    かなりの初代と同じく、ロングセラーです。途中でGR SPORTという強力なバリエーションを得たことも、商品寿命を延ばす効果があったでしょう。

    ダイハツの認証不正問題の影響で生産が一時停止し、コペンの将来は不透明であった部分もあります。ただ、LA400Kが「着せ替え」という一見キワモノに見えるアイデアの奥に、軽スポーツを成立させるための冷静な構造設計を持っていたことは、もっと評価されていいはずです。

    趣味のクルマを作り続けるには、情熱だけでは足りない。仕組みが要る。

    LA400Kは、その仕組みを発明したクルマでした。